最近、髪が鬱陶しい。なんかな〜、結構伸びた気がするんだよね。肩くらいだった髪がいつの間にか胸あたりまで伸び伸びしている。こんなに髪伸びるの早かったっけか?え、なに?スケベ…だと?スケベちゃうわ!!……あーもー、鬱陶しい。が、そんなことよりもこの書類をどうするかだよな。皆さん…覚えているだろうか。私はこの世界の文字が読めないし書けないということを。クラウドに手渡されたのだが、まぁ…読めませーんってなわけでして。

「クダリさんクダリさん、ここに判子おせば良いんですよね?」

「そうそう。……うーんと、他のもそうみたいだね」

「把握した。…すみませんね、文字読めなくて」

そろそろ勉強せにゃいかんな…。凄く嫌だけどね!…いつまでも甘えてたらナマエさん、駄目人間街道まっしぐらやで。溜め息を吐いた私に、ペラペラと書類に目を通していたクダリさんが、きにしないで、とにっこり笑う。わ、私が駄目人間になっても良いというのか!?

「ゆっくり、学んでいこう?僕も、ノボリもお手伝いするからね」

「…ありがとう、です」

「どういたしまして!」

クッソ!やっぱり甘えてしまうじゃない!ナマエのお馬鹿さんめ!…いや今は目の前の書類に判子をおしまくる事に専念しようじゃないか、うん。よし、気合い入れるわ。手首につけていたヘアゴムでギュッと髪をひとつに結ぶ。いざ、この書類の山を処理しようではないか!!判子おすだけだけどな!


******


ぺたん。ぺたん。一心不乱に判子をおし続けてどのくらい経ったのだろうか。手が痛いでごわす。……ふむ、だが終わりは見えてきたぞ。あともうひとふんば…な、なんだよクダリさん。あんたはあれだな、無言で人を見つめるのがすきだな。…いや、あの…なにかあるなら言いなさいよね。

「ナマエ、髪伸びたね」

「え?あ、そうですね。鬱陶しくてたまらんですよ」

「ふーん…」

なんだその反応は。いつものにんまり笑顔のまま、顎に手を当ててなにやら考えている様子。…いや、今はこのぺたんぺたん作業…間違えた捺印作業に集中するわ。視線をクダリさんから書類に向けて五分程経過しただろうか。何故かクダリさんが私の髪をいじり始めたんだが…な、何事!?私の髪を縛っていたヘアゴムを外し、手櫛でサラサラと私の髪を梳いているではないか。え、ちょ、な…え?

「なにしてるんすか?」

「ん〜?ひみふ〜」

ヘアゴムをくわえてるのかなんとも可愛らしい話し方である。少しあざとい感じがまたクダリさんっぽいよな。…まぁすきにさせときましょう。もうすぐで終わるぜ。えーと、あと……十枚か!いや〜…捺印って意外と疲れるね。綺麗におさないと駄目っぽいから緊張するしな!手がつりそうです。ぎゅっ、ぎゅっ、と判子をおしまくり、途中邪魔されながらも(クダリさんが動かないで!とか真っ直ぐ座って!とか言いやがりましてね…)漸く最後の一枚が終わった。

「「できたー!!」」

え、なんかハモったんですけど。なに?と振り向けばクダリさんが満足そうな笑顔を浮かべているではありませんか。な、なに?

「ナマエ!鏡!鏡みて!」

「え?え?鏡?」

なにこのテンションの上がり方。ちょっと怖いんですけど。そんなクダリさんに引きつつ鏡を探す私は優しいよね、うん。…あったあった。鞄から取り出し言われたとおり鏡を見てみる。あれ…?三つ編みの…カチューシャ…?いや、カチューシャ風…三つ編み?どっちでもええわ。と、兎に角な、なんか…私が可愛らしく見える。不思議。

「上手くできたと思う!ナマエ、すっごく可愛い!」

「髪型で印象かわりますね〜…。クダリさん、器用っすね!」

「えっへん!」

その年でえっへんて…。クダリさんだから許されるよな。…しかし、これ…凄いなぁ。確実に私には出来ないわ。途中で苛々して投げ出す確率百パーセントやで。なははは。…っと、クラウドに書類渡しに行かないと。立ち上がる私を見てクダリさんが首を傾げた。

「どうしたの?」

「書類渡してきますわ」

「そのまま?」

彼が指さすのは私の頭。え、せっかく結んでもらったんだから…このままでよくね?私もさ、ほら、一応女の子だし?可愛さアピール?してもよくないっすか?

「だ、駄目なの?」

「駄目!!」

な、なんでや!!クダリさん全力の駄目!!に狼狽える私である。そんな私を彼はぎゅっと抱き締めてくるのでついでに混乱してしまった。誰か私のステータス異常を治してぇえええ!!ちょ、まじでなんなの!?あんたが結んだんですよ!?おーい、分かってますかー!?

「可愛いナマエを見ていいのは僕だけ!他の人に見せたら駄目!」

「な、なんじゃそら…って!書類がぐしゃぐしゃになるわ!ちょ、ちょっと離れましょうか!」

が、しかし、そんなこと知るかといったように力を込めるクダリさん。く、クラウド…まじごめん。だがこれは私のせいじゃないから!苛々する私の耳に彼の吐息がかかり、思わず身体がビクッと揺れる。そんな私の顎をくい、と持ち上げ真剣な顔でじっと見つめるクダリさんに固まる私ですよ。こ、この…無駄にイケメンなんだから…!普段より、少し低い声でクダリさんが言葉を紡いだ。

「言うこと聞いて」

じゃないと、このままキスするよ?だってさ。皆さん、お分かりだろうか。これがただの脅しであると。無駄に色気を振りまくクダリさんにただただ頷くしかない私。そんな私に満足したのかクダリさんはにっこり笑顔を浮かべる。

「ん、いい子。いい子にはご褒美あげちゃう」

「なっ……むぐふ!」

はいはい、でたでた。詐欺ですよ詐欺。結局私はちゅーされてしまうわけですよ。立派な詐欺です、はい。こんの馬鹿野郎と声を大にして言いたいけれど、…それより私の色気の無さをどげんかせんといかんと思ってしまうのが不思議やで。あー…もう…。

「…たまに髪結んでくれます?」

「勿論!僕、ナマエの髪好き!あ、ナマエも大好き!」

「そ、そんな事は聞いてないわ!」

…うん、私もこの人には甘くなるな。クダリさんの腕の中で苦笑する私であった。



後書き

テンさまリクエストの「言うこと聞いて」でした〜。クダリさんは髪を触るの好きそうだなぁ〜、髪触られたいなぁ〜、という私の願望が形になりました!器用に三つ編み作れちゃうクダリさんも素敵ですが、不器用ながら一生懸命に編むクダリさんも捨てがたい…!今回はささっと編んで頂きました〜。

あ、夢主はぐしゃぐしゃのまま書類を提出しました(笑)夢主…がんばれって感じですね!うふふ!それでは…テンさま、素敵な台詞、そして企画に参加して下さりありがとうございましたー!