ビタン!と力の限りテーブルにトランプを投げつける私。そんな私とは対照的にヤッター!と声を上げるのは違う地方からやってきたサブウェイボスのエメットさんである。あぁ腹立たしい…。腹立たしいにも程がある。

「ナマエちゃんの負ーけ!ボクの勝ちー!」

「く、くそぉぉおおお…!!!」

ちなみにババ抜きで負けた。二人でやるババ抜き程悲しいものはないがそれで負けるのも相当なもんだよな!なははは!!で、何故に私がこんなに悔しがっているか…。それは、ババ抜きを始める前に交わした約束のせいなのだよ。…よくあるあれですよ。負けた方が勝った方のいうことをなんでもきくっていう…あれ。

「えぇい、私も女だ!なんなりときこうじゃないか、言ってみやがれってんだ!」

「なんでキミはそんなに男らしいの…。もう少しさぁ、女の子らしく…もういいヤ」

おい、なんだその言い草は。これでもそこらの女どもよりご飯は作れるし、裁縫に掃除洗濯も出来る奴なんだぜ?性格は……ちょっとあれだけどな!!自虐的になる私をスルーしたエメットさんが、顎に手を当てウーン、と唸りながらなにやら考えている。……強気に出たけどエロス全開なものは止めろよな。流石の私も困るわ。その時だ。閃いたと言わんばかりに手を叩くエメットさん。

「きーめた!ナマエちゃん、ナマエちゃん!耳貸して!」

二人しかいないのにわざわざ耳打ちする必要があるのかはさておき、なんだよと私はエメットさんに耳を貸した。……は?いや…ちょ…は?き、貴様…そのネタをどこで知った!?いやまぁそこはご都合主義ということで…って違う違う違う。

「なんて罰ゲームだよそれ!!」

「あれれ〜?ナマエちゃんもしかして忘れちゃったのカナ?最初にした約束!勝者のいうことは?」

「……絶対ですよね!わかってますよ!馬鹿野郎!」

「んふふ〜、それじゃ…いってらっしゃい!」

全てにおいてあざといこの男をいつか殴る、グーパンでな!!と心に決め、私は部屋から出るのであった。……ギアステを一周、か。だが今はお昼休みで皆出払っているはずだ…!ふふふ…その間にこんな罰ゲームクリアしてやる。と、意気込む私だったがそんな淡い希望は見事打ち砕かれることになったのだ。

「あー!ナマエちゃん、おはよー!」

「か、カズマサ…」

鞄を抱えたニコニコと笑顔のカズマサが、今は悪魔に見える。いや貴様…さては悪魔だな!カズマサの皮を被った悪魔だな!!そうだ、そうに決まっている。よしきた私が成敗してくれるわ!…ん?おはよう…だと。

「…もしかして今から出勤?」

「えへへ…また迷っちゃって…」

駄目だ。こいつは悪魔でもなんでもない…この迷子っぷりは本物のカズマサですよ、はい。……ですよねー!分かってたけどね!私の現実逃避だったんだけどね!!溜め息を一つ零し、相変わらずニコニコ笑顔なカズマサに視線をやった私は意を決して…言葉を紡いだ。

「……カズマサ」

「ん?ナマエちゃん、なぁに?」

「ヤラナイカ?」

あぁぁあああ!!!言ってしまった…言ってしまったよ!これがエメットさんから出された罰ゲーム…。ギアステ内を一周する間、出会った知り合い全員に某青いツナギのイイ男の有名なこの言葉を言ってみてヨ!だってさ!なんであんた阿部さん知ってんの?とか思ったけど…こりゃ酷い。酷すぎるだろ。などと私が現実逃避している間のカズマサはなんともキョトンとした顔をしていらっしゃる。おい、なんか反応しろよ。いやして下さいお願いします。脳内で小さなナマエたちがガタガタ震える中、目の前のカズマサが私の手をギュッと力強く握った。

「ありがとう!僕、ナマエちゃんとならうまく出来る気がするから…凄く嬉しいよ!」

「ん?んん?」

「えっと…日程はまた今度決めようか。そろそろ行かないと怒られちゃうから…またね!」

カズマサの言葉に私はその場に立ち尽くすしかなかった。えっとえっと……カズマサぁぁああああ!!!!お前…まさか…。いやそんなまさか!カズマサがそんな卑猥なこと考えてるとは思えない…思いたくないよぉぉおお!一人立ち尽くし呆然とする私の名前を誰かが呼んだ。

「ナマエやんか。どないしたんや?」

「クラウド…ヤラナイカ?」

「いやいやいやいきなり意味わからんで」

もうええねん。一回言ってしまったらもうええねん。今の私絶望に満ちた顔してる気がするわ。眉をひそめたまま私を見つめていたクラウドだったが、あぁ…、と一人納得したように呟く。そしてわっしゃわっしゃと私の頭を撫で回すではないか。なんだ…なんだこれは。容赦なく頭を撫でられ髪はボサボサである。ナマエの怒りのボルテージがあがった!▼

「どうせまたエメットに負けてくだらん罰ゲームさせられとるんやろ?」

「……うん」

あれ?なんだこの…お父さんみたいな感じ。思わず素直に頷いてしもたやないかい。一応お客さんて扱いやけど嫌やったらちゃんと断るんやで、と言葉を残しクラウドは去っていった。…おかしい。クラウドが優しい大人に見える。いやいやこれは私の目が疲れているせいだな。よし決めた。今日はブルーベリーを大量に摂取しよう。そうしよう。

その後知人がいないか辺りを確認しながら歩く私はゴールに近づいていた。私は忍者だ私は忍者だ私は忍者だ!!!だがしかしこの暗示も虚しく目の前に黒と白の見慣れたコートががががが…。思わず頭を抱える私である。己の運の悪さに絶望した!

「ナマエだー!うぎゃ!!…ノボリ、何するの!」

「あなたがナマエ様に飛びつこうとするからです。勢い良く抱きついてしまうと危ないでしょう」

呆れた様子で溜め息をつくノボリさんが、不機嫌そうに口を尖らせるクダリさんのコートを掴んでいる。ううむ…この二人にも言わなきゃいかんのだよな。意外と律儀だなって?エメットさんはきっとどこかで見てるからな…あの人ね、怖いのよ…。さて…悩んでいても仕方ないのさ。さくっと言って逃げますわよ。

「あー…お二人さん」

「ん〜?」

「なんでしょう?」

「や……ヤラナイ…カ?」

ちょっとね!やっぱりこの二人に言うのは抵抗がね…あるのよね!まぁエメットさんの罰ゲームなんだよ〜って言えば大丈……。ちょ、ちょ…二人の反応が怖い。クダリさんはきらきらと輝くような満面の笑み、一方のノボリさんはそりゃもう顔を真っ赤にして棒立ち。あれ?……あれ!?

「ナマエさま…!!ご、ご自分がなにを仰っているのかお分かりでございますか!?」

「ノボリどうしたの?ナマエはバトルしようって言ってるだけじゃない!」

クダリさん、私あんたらとはバトルしないからな?私の本気とサブマスの本気がぶつかったらとんでもない化学反応が起こる気がすんだよな。車両が破壊するとか余裕で起こる気がすんだよな!そんな危険なこと私は致しませんって…クダリさん意外とピュアなのね。反対にノボリさんは…。

「ちょ…あのノボリさんこれには訳が…」

「わわわわわわわたくし!!!!お先にしちゅれい致します!!!!」

「お、おいぃぃいいい!!!!ノボリさんんんんんん!!!!!!」

完全に誤解したまま…ノボリさんは猛ダッシュで走り去っていった。あんた…今めっちゃ噛んでたよ。しちゅれいて…。いやそんな事考えてる場合じゃないのは分かってる。現実逃避ですよ!!現実逃避!!!ストレス社会に生きる我々には必要なものじゃないか!そうだろ!?なぁ、クダリさん!!ってクダリさん忘れてた。が彼はそんな事は気にしていないらしく首を傾げていた。

「なんでノボリ走って行っちゃったんだろうね」

「……お腹痛かったんじゃないっすか」

「そうかな〜?ま、いっか!ねぇねぇ!いつバトルする?明日!?」

「いやいやいや…」

こっちはこっちで面倒臭い勘違いしてるんだった…。だからあんたらと私が本気出すとヤバいって。きっとライモンシティを巻き込んだ大きな事件になる…いや一回事件起こしたけどもな!!もう起こしたくないから!!だがしかしキラキラとしたクダリさんに…強くは言えないんだよ…。一気にシュンてなるから…。まぁそれはそれで可愛いけど…って何言わせやがる。

「…ごめん。やっぱりバトルは危ないからやめとこう(主にライモンシティが)」

「えぇー!?さっきやろうぜ!って言ったのにー!」

「やろうぜとは言ってないわ…。そのかわりに…今日の晩御飯はクダリさんの好きなもの作るよ」

だから機嫌を直してください、と苦笑しながら言う。クダリさんは暫く口を尖らせていたが、小さくわかった、と呟いた。割と話が分かるじゃないかと安堵した時だ。超至近距離にクダリさんの顔が。咄嗟に手が出そうになったがそんな隙も与えずに彼はとんでもないものを盗んで行きました。そう…デコチューです。

「な!!ちょ、は!?おま!?」

「今日は、これで我慢したげる。じゃあ、行ってくるね!」

「ま、まてぇぇええい!!!!」

普通の人が聞いたら恐らくビビるような声で叫ぶがクダリさんはそんな事も気にもしない様子で走っていく。私?軽く腰が抜けて動けませんけど?あー!くそ!クダリさんめ…無駄にドキドキさせやがって…。遠くなるクダリさんの後ろ姿を睨みつけていると、なんと途中でクダリさんが振り返った。彼はニッと口角をあげて、私に大きく手を振った。

「今日はオムライスがいいー!」

それだけ言うとまた前を向いて走り出していった。あぁ…もう…なんだこれは。思わず零れるのは溜め息。あの笑顔に弱いんだよなぁ、と苦笑する私である。