サブボス(サブウェイボスって長いから略すことにした)の二人が来て数日が経った。相変わらず無言で無表情なインゴさんは自分のポケモンたちと戯れているし、エメットさんは未だに私のことを信じていないようだ。映像を見せても「こんなのトリックがあるに決まってるよ!」の一点張り。私の頑張りを否定しやがって…。トリックもなにも…私が強いだけなんですけどね!てへぺろ!なんつって。まぁ、そのことは認めてくれないが、エメットさんは良い人だ。お菓子をくれたりお菓子をくれたりお菓子をくれたり……あれ?餌付けされてる?そんな馬鹿な…!!

「…ふむ、今日も平和な一日で終わるな。良いことだ」

こんなことを口にするんじゃなかった。今日は平和にならなかったなんだなぁ、これが!まさかこの一言がフラグだったとはとはとは…まぁすぐにおさめたけどね!!騒ぎの原因は…エメットさんが持ってきた……大量の木の実である。両手いっぱいに抱えられた色とりどりの木の実に私は眉をひそめた。…あんた何持ってきたの?が、私の睨みに対してニコッと笑みを浮かべるエメットさん。

「女の子が、そんな怖い顔しちゃダーメ!そんなキミに、笑顔になれる木の実をあげる!」

「……食べられるんですか?」

「勿論!」

手渡された木の実…。なんかポケモンに持たせたりするやつだよな?紫色でイボイボの突起に覆われたこの固い木の実…ど、どうやって食べんの?てか本当に人間が食べていいやつなの!?木の実スープにこんなの入ってたかな…。チラーミィ…お前一口いく?差し出してみるが歯を剥き出しにされた。お、おま…そんなに拒否されると不安になるだろ!?……せっかく貰ったもんなぁ、ちょっとかじってみるか。

意を決して木の実を口に運ぼうとした瞬間チラーミィが私にすてみタックルをしてきた。え、全力で阻止するくらいこれ食べたらあかんの…!?体当たりじゃないとこがチラーミィらしいよな。で、その衝撃でうっかり木の実を落としてしまった私。コロコロと転がった木の実は、オノノクスと戯れるインゴさんの足元へ。首を傾げ拾い上げたインゴさんは少し考えた後、オノノクスの口元にそれを運ぶ。

「…あ」

喜ぶオノノクスは大きく口を開けて、ぱくりと木の実を食べてしまった。それを見たエメットさんの顔がどんどん青ざめていくではないか。そして木の実を食べたオノノクスなんだが、先程までの穏やかさは綺麗さっぱり無くなり、何故か低い唸り声を上げている。おまけに…目の焦点が合ってない。あれ?私、こういうポケモンたち見たことあるぞ?うん…これは、あれだな。オノノクスさん…混乱してるな。って!インゴさん!なにぽやっと突っ立てるんだ…!!鈍く光る尻尾を振り上げたオノノクスを静かに見つめるインゴさんに舌打ちし、私は駆け出す。

「インゴ……ッ!!」

鋼鉄のように硬いオノノクスの尻尾はインゴさんに当たることはなかった。私が彼を突き飛ばしたからな!オノノクスの尻尾?余裕で片手で受け止めてやったわ。ちなみにその時の効果音はカキンという見事な金属音。あれ?私知らぬ間に人間卒業しちゃったのかな?卒業証書もらってないからセーフだよな。うん。…っと、二人を巻き込んだらいけねぇな。呆然とするインゴさんとエメットさんに視線を向ける。

「あとは私に任せな」

「…え、ちょ、…カオルちゃん!!」

まぁまぁエメットさん。そんなに心配しなさんな。丁度良いじゃん。トリックがあるか見てなさい。繰り出される鋭い爪の攻撃、ドラゴンクローをかわし続ける私はもう楽しくて仕方がなかった。流石、サブボスの育て上げたポケモンだな…。一撃一撃が重い、気がする。あぁ!バトル楽しい…!でも…そろそろ終わらせないとな。

「よっしゃ、チラーミィ!ハイパーボイス!」

私の言葉にニヤリと悪い笑みを浮かべたチラーミィ。たっぷり息を吸い、空き地で迷惑なリサイタルを開催する某ガキ大将並みに破壊力のあるハイパーボイスを繰り出す。下手したら窓ガラスが粉砕するレベル。これは立派な公害です。まぁ、ポケモンの技だから、仕方ないよね!!みんなもハイパーボイス使うときは周りに迷惑がかからないようにしろよ!で、だよ。チラーミィのボエ〜、を食らったオノノクスは見事にフラフラになっているわけだ。てなわけで…。

「そろそろ正気に、戻れやぁあああ!!」

地面を蹴り上げ高く飛び、そのままオノノクスの顔面にカオルさんのマイブームである蹴りを放つ。オノノクスの牙が折れないように気をつけた私の優しさ…!!自分で自分を誉めてやるわ。ズシンと音を立て倒れるオノノクスを一撫でしながら、ごめんな、と呟く。さぁて、と。

「インゴさん、この子ボールに…うおい!!」

座り込んでいたインゴさんが急に立ち上がり私の両肩を思い切り掴んだではありませんか。しかも何かペラペラ喋っている。英語だからわからんってば!!て、てか…近い!顔が!…ペラペラペラペラとワケのわからんことを…。エメットさんも固まってないで助けてよ!……多分この時の私、バトル後ってこともあってその…気持ちが高ぶってたと思うんだよね。うん…そのつまりだね、私は目の前でずーっと英語で話し続けるインゴさんの額に、頭突きを…してしまったわけだ。カッとなっちゃって…。とりあえずあれだろ?てへぺろって言っときゃ許され……ない、だと。


「日本語…いやイッシュ語で話さんかい!!さっぱりわからんわ!!」

「い、インゴーー!!」

「な、なんでございますかこの惨劇は…!?」

「カオル!!インゴいじめたら、駄目!」

「いじめとらんわ!!」



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