いや〜、ノボリさんの説教まじ長いんですけど。既に聞き流している私です、はい。左から右へ、たまに右から左に流しつつ、すみませんすみませんとたまに相づちを打つ。だがなぁ、今日の遅刻は仕方なかったんやで。迷子のお客様を連れてきてたんやで。そこはちょっと評価してほし……いやなんでもないです。ごめんなさい。睨まないで下さい。はぁ、とノボリさんの大きな溜め息にビクッと身体が揺れる。そんなに怒らんでも…視線を向ければ、眉をひそめ苦笑を浮かべるノボリさんが目に映る。

「……あまり心配させないで下さいまし。カオル様が定時に出勤されないと、もしかして事件や事故に巻き込まれたのではないかと不安になるのです…」

「そんなに私は不運体質じゃない…とも言い切れんが、そんなに心配しないで下さい」

過保護過ぎんで、あんた。……それにしても、なんだか今日は騒がしい気がする。クラウドやカズマサもあっちに行ったりこっちに行ったり…一体何があったし。首を傾げノボリさん、と声をかける。

「なんかイベントであるんですか?」

「…カオル様、昨日わたくしがお話したこと、また聞いていなかったのですね!?」

しまった。地雷踏んだ。おいおいおい〜…また説教が始まるやないか。仕事モードのノボリさん、まじ厳しい。どうやって逃げ出そうかと思案する私の耳に、女性スタッフたちの黄色い声が聞こえた。な、なにごと!?視線をそちらに向ければ我らがボス、クダリさんがおはよー、と皆に声をかけている。そしてその後ろの人物たちに私は目を見開いた。さ、さっきのお兄さんんんん!!!!そう。私が案内したお兄さんが、ノボリさんのものとよく似たコートを羽織っているではないか。ど、どゆこと?固まる私と、お兄さんの目が合う。

「あ…」

思わず声がでた。彼は足を止め、隣の笑顔のお兄さん(顔がそっくりなので双子なのだろう)に声を掛けた。そして指をさされる私である。やめてやめて!目立ってるからやめて!何を話したのかわからないが、笑顔のお兄さんが「わお!!」と声をあげた。なにそのテンションの上がり方怖いわ!って、こ、こっちにきたぁあああ!!

「キミがインゴを助けてくれたんだネ?アリガトー!インゴもスッゴく感謝してる!」

…あるぇ?お、お兄さん日本語…いやイッシュ語ペラペラやん。ん?い、隠語?なにそれ怖い。

「エメットってば!勝手に走って行かないで…ってカオル!まさかエメット…カオルに手を出そうとしてたの!?そんなの、僕が許さないよ!」

「ち、違うよ!ボクは彼女にお礼を言ってただけ!」

「…な、なんだこれは」

口に出さざるを得ない。なんでイケメンがこんなにわらわらと現れるんだよ。眩しい!あんたたちの存在が眩しい!…えっと、エメットさん…?をポカポカ叩くクダリさん可愛い…じゃなくて、この場をおさめないとだな。ノボリさんはなんで黙ってやがる…ん…だ!?気がつけばノボリさんの腕の中な私。あ……あるぇ!?ちょ、ちょっと意味わかんないだけどなぁ!

「エメット様、申し訳ございませんが…カオル様をお渡しすることは出来ません。もし彼女に手を出そうとお考えであれば……よろしい。ならば戦争だ」

「お、落ち着けぇえええ!!」

だ、誰か!彼らの暴走を止めて頂けませんかー!?……あ、ランクルスが無表情。瞬間、ピシッと空間が割れるような音が響く。そして悶え苦しみだす彼らに私は、あららら、としか言いようがなかった。

「イタ!?え、な、なにコレ!?」

「いたたたた!!ちょ、ストップストップ!カオル、とめて!」

「あ、頭が割れそうでございます…!」

「ランクルス!!」

私の声に空間が和らぎ、パタリと倒れる三人。全く…やり過ぎだ、馬鹿たれ。軽く頭を叩けば不機嫌そうにムスッとするランクルスである。彼らは普通の人なんだから止めなさいっての。…見事な惨劇だな、こりゃ。医務室に運ばないとだな…。ランクルス、念力で運んでくれ。視線を向けるがすっげー嫌な顔された。おい…拒否るんかい。……チッ、じゃあ私が運ぶか。

「おーい、ノボリさん、クダリさん。立てる?医務室に行きましょう」

「も、申し訳ございません…」

「カオル…ありがとう…」

「いやランクルスのせいだし…っと、私一人じゃエメットさんが……あ」

私の両肩…ノボリさんとクダリさんに貸しちゃったからなぁ…と悩んでいると、朝のお兄さんがエメットさんの肩に手を回し、ふらふらな彼を立ち上がらせた。きらきらと綺麗な青い瞳が私を見つめる。……えぇと、手伝ってくれるのかな?だ、だよね?だと信じますよ?

「こ、こっち…です」

「OK」

「えぇと……さ、さんきゅ」

「…you are welcome」

お、おうふ…。本場のゆあうぇるかむは…やっぱり違うな。そんなことをぼんやり思いながらのそのそと双子を抱えて歩く私であった。



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