今まで作っていたお弁当はノボリさん、クダリさん、そして私の分の三つだった。そう、今朝までは。

お昼休みの時間になった私はお弁当を抱え執務室へと向かっていた。フワフワ浮かぶランクルスもお腹が空いているのか私に甘えてくる。よしよし、ちょっと待ってろ。向こうについたら一緒にご飯にしような。ぽん、と頭を撫でる私の視界に見覚えのある金髪の兄ちゃんが映る。その両手には大量のスナック菓子が入ったビニール袋が…なんだ?気になった私は思わず声をかけてしまっていた。

「エメットさん!」

「…あ!カオルちゃん!どうしたの?」

「いや…なんでそんなにお菓子を…」

言いながら彼の手を指差す。非常食?非常食なの?いやそんなお菓子よりもっと良いのがあると思うよ?乾パンとか…乾パンとか。ごめん、乾パンしか出てこないわ。そんな貧困な発想しか思いつかない私にエメットさんはにっこりと笑みを浮かべとんでもない事を言い放ったのだ。

「これはねぇ…ボクとインゴのお昼ご飯ダヨ」

……あれ?私の耳がおかしくなったのかな?今"お昼ご飯"とか信じられない言葉が聞こえた気がする。んな馬鹿な…。きっとおやつだよって言ったんだよね?そうだよね?

「…お、おやつ?」

「ううん、お昼ご飯!」

私の耳ぃぃいいい!!おかしくなってなかったじゃない!この人はっきりお昼ご飯って言いやがりましたよ!…ま、まさかイッシュに来てからずっとそんな生活してたとか言わねぇだろうな…。いや無いと思うけどね?一応、聞いてみようか。

「もしかして、ずっとそれがご飯がそれだったとか…?」

「アハハ!そうだよ〜。イッシュのお菓子って美味しいから飽きないヨ」

「こんのバカタレ!!」

飽きる飽きないの問題じゃないわ、ボケぇぇええ!!視線をランクルスに向ければ、彼は静かに頷いた。そして念力で私の荷物をフワフワと浮かせる。良く私の言わんとすることが分かるな。流石ランクルス!その様子を不思議そうに見るエメットさんを思い切り睨みつける。

「インゴさんと一緒にうちのボスたちの執務室で待ってろ…」

「え?あ、カオルちゃん?」

「ランクルス、連れていってくれ」

「うひゃ!!ちょ、ちょっと!ボク、歩くからおろしてー!」

残念だがランクルスは私の言うことしか聞かんのでな。悲鳴を上げるエメットさんとランクルスを見送り私は走り出す。急いで近くのスーパーまで行かねば…!!


******


私の脚力半端ねぇ。十分で帰ってこれたわ。流石最強ってか?普通の女の子に戻るつもりは毛頭ありません、はい。コンコンとノックすれば、執務室の扉が開きにんまり笑顔のクダリさんが出迎えてくれた。…って、クダリさん…あんた…。

「また米粒ついてますよ?」

「本当?取って取って!」

「自分で取れよな…全く…」

苦笑しながらそっと取ってやる私は優し過ぎるだろ。…って、こんな事してる時間は無いのだ。中に入ればお弁当をもぐもぐ食べるノボリさんと、机に突っ伏したエメットさん、ランクルスと戯れるインゴさんとなんともフリーダムなことになっている。…あのランクルスが私以外の人間に懐くとは。思わず見続けていたが本来の目的を思い出した私はノボリさんに声をかけた。

「ちょっと、給湯室借りますね」

まだ口をもぐもぐ動かすノボリさんはこくんと頷く。その姿の可愛いこと……違う違う違う。…ノボリさんの許可も頂いたことだし、急いで作ろうか。…多分エメットさんは空腹でぐったりしてるんだと思うんだ。さぁ、家政婦カオルの腕の見せ所だぜ。…と言っても時間が無いから手抜きで申し訳ないがな。買ってきたのはご飯、牛乳、冷凍のミックスベジタブル、チーズ、コンソメ。いえす、リゾット作るんだわ。

「牛乳とミックスベジタブルとコンソメ入れて…」

中火で温めている間にお皿とスプーンを準備。いやちゃんと見てるから大丈夫大丈夫。んでもって、ご飯を投入しチーズを…うあー…、めっちゃ美味しそうな良い匂い。とろりと溶けるチーズがまた…たまらん。涎がでるわ。その匂いに釣られたのかランクルスがフワフワとやってきた。熱いからな!チラーミィみたいに火傷するからな!!少し煮立たせて…完成。簡単過ぎてワロタ。リゾットをお皿によそい、お盆に乗せて給湯室を出る。

「インゴさん、エメットさん、お待たせした。どうぞ」

「え?えーー!?カオル、ありがとうー!いただきまーす!」

「はいどうぞ」

ひゃっほー!と歓喜の声を上げるエメットさんに苦笑する。さて、私もお弁当とランクルスのご飯、と。ポケモンフードをお皿に入れてやればもきゅもきゅと、可愛らしく食べていらっしゃるランクルス。カメラがあれば連写してたところだ。…むむ!視線を感じる…!見ればクダリさんがあからさまに不機嫌な顔で私を見ているではないか。思わず苦笑する私である。嫉妬し過ぎワロタ。

「二人とも良いなぁー!」

「もう食べたでしょうに…」

「そういう問題じゃないの!」

じゃあどういう問題なのかを千文字以上で答えよ。…ってあれ?インゴさんなんで固まってんの?…まさかリゾット嫌いだったとか?まじで?カオルさんミスチョイス!!

「あ…っと、もしかしてお嫌いでしたか?」

恐る恐る声をかけてみれば、ゆっくりと私に視線を向けるインゴさん。その綺麗な碧眼には戸惑いの色が浮かんでいるはないか。マイガーッ!!そんなにリゾットが嫌なのかい!?…仕方ない。代わりに私のお弁当でも食べてもらうか。インゴさんのお皿を下げようと手を伸ばすが、何故か阻止されたわけだ…インゴさんにな。

「…インゴさん?私がこっち食べるんで、このお弁当を召し上がって下さい」

「…いえ、ワタクシがいただきます。カオル様、ありがとうございます」

「え…?いやいや、嫌いなら無理に食べなくても…」

「ワタクシ、好き嫌いは無いので大丈夫ですヨ」

そう言うとインゴさんは、パクリとリゾットを口に運ぶ。…何故だろう、緊張してしまうのは。私が見守る中、インゴさんはもぐもぐと数回噛んでから、コクンと口の中のものを飲み込む。そして大きく目を見開いたかと思うと、ふわりとした柔らかい笑みを浮かべるではありませんか。その後は無言でひょいぱくひょいぱくと食べ進めていくインゴさんである。…不思議な人だな。ぼんやりそう思いながらお弁当の蓋を開ける。…うん、我ながら美味い。

「よぉーし!エネルギー満タン!僕、午後も頑張る!」

「えぇ、そうですね。ではカオル様、わたくし達はこれで…。あまり無茶はしないで下さいませ」

「……あぁ、うん」

善処します。私の言葉に頷いたノボリさんがピシッと敬礼をして歩き始める。何をしても様になるイケメンだが乙女なんだぜ…?そんなノボリさんを追いかけるように慌ててクダリさんが駆け出す。途中何度か振り返って手を振るその姿はこのバトルサブウェイの頂点に君臨するサブウェイマスターとは到底思えない。…可愛い大人だな!全くよ!…さて、と。

「じゃあ私も行きますわ」

「うん!カオルちゃんのご飯、とーっても美味しかったヨ!ありがとね!ほら、インゴも!」

「…カオル様、御馳走様でした」

「んもー!インゴ反応薄いヨー!」

エメットさんのテンションが高すぎるんじゃないかな?多分そうなんじゃないかな?苦笑する私を見てインゴさんが不思議そうに首を傾げた。あんたら漫才出来そうだね。イケメン双子漫才師とか…それまじやばい。っと…そうだ。

「良かったらなんだが…明日からお二人のお昼ご飯を作ってきて良いかな?」

「えー!?ホントにー!?やったー!」

止めろ止めろ止めろ。飛び跳ねるんじゃない。無駄に目立つから止めろ!あと無言無表情なインゴさんがなにを考えているのかわかりません…!!ランクルス、テレパシー的なやつ頼むわ。…そ、そんな目をするな!お前馬鹿か?みたいな目をするなぁああああ!

まぁそんなこんなで私の朝の仕事が増えたわけだ。…誰かに喜んでもらえるのは、なんか良いよな。こう思えるようになったのも、あの二人のお陰…だな!


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