昨日はやらかしちゃったなぁ〜…。うっかりインゴさんに頭突き…食らわしちゃった。お詫びとしてお菓子作ってきたけど…う、受け取ってくれるかしら…?内心ビクビクな私である。そんな私の手をキュッと握るゾロアークがふんわり微笑む。…そ、そだね、きっと大丈夫だよね。何事もポジティブに考えよう!てなわけで、相変わらず双子に化けるゾロアークと共にインゴさんを探しているのだが、なかなか見つからない。いつも座ってるベンチにも、休憩所にもいない。どこやねん…。

「カオルちゃんやっと見つけた!」

「なんだ、エメットさんか…」

「その言い方なんなの!?ボクだって傷つくよ!?」

いや…だって、ねぇ?インゴさん探してるわけだからな。ん?やっと見つけた…ってことは、あなた、私を探してたの?首を傾げる私にエメットさんが突然頭を下げた。って、えぇえええ!?な、なにごとだよ!!うわー!!お客様もこっち見てるじゃんか!目立ってる目立ってる。私たち目立ってるから。

「ちょ…やめてやめてやめて。私がなんかやらかしたみたいだから」

「ノボリとクダリの言うとおり…キミの力は本物だった。トリックがある、なんて言ってごめんね…」

あぁ…そのことね。気にしてないからさ!頭を…頭を上げなさいよ!エメットさんの肩を軽くぽん、と叩けば不安そうな目で私を見つめる。…そ、そんなに私怖いの?大丈夫ですよ、と苦笑を浮かべれば何度も本当に?と言われたがどうにか信じてもらえた。良かった〜…まだ続いてたら頭突きするとこやったわ。エメットさん、命拾いしたな…ってエメットさんんんん!?いや、あの…なんかな?お姫さまだっこ…されてんだけど。ひょい!って浮いたからな!危うく作ったお菓子落とすところだったわ!呆然と見上げれば、ニコッとそれはそれは良い笑顔を浮かべたエメットさんが私を抱えたまま走り出した。

「お、おい!おろせ!今すぐおろしなさい!」

「アハハ!みんなどいてどいてー!エメット宅急便のお通りだよー!」

「なんやそりゃぁあああ!!」

私の雄叫びがホーム内に響く。あ、ゾロアークが物凄い恐ろしい顔して追い掛けてくる。やばいやばいやばい。端から見たら三角関係みたいじゃね?まじで。……嫌すぎるんですけど。いやまじで。なんでこんな時に限って双子がいないのさ!マルチトレインに乗ってるからだよ!はっはっは!いや笑えない。
その後、なんとエメットさんはゾロアークを撒いたのである。私?もうぐったりしてるわ。そんな私を気遣うくらいならさっさとおろせと何度も思った。で、漸く私は解放されたわけなんだが、着いた所はギアステーションの中でもあまり人がこないような場所ではないか。

「…エメット宅急便さん、配達場所間違えたんじゃないんですか?」

「んー?エメット宅急便はそんなミス致しません!なんてネ!」

「あれ?右手がエメットさんを殴りたいって言ってる…」

「わーわー!!待って待って!インゴ!隠れてないで早くきてよ!」

荒ぶる私の右手がエメットさんの顔面に向かっていこうとした時、物陰からインゴさんがおずおずと出てきたではないか。…いや、インゴさん、違うんです。私が殴ろうとしたわけでなくですね、えーと…そう!この右手が!この右手が悪いんです!

「…カオル様、エメットは悪くないのデス。ですから、お怒りならばワタクシが受けましょう」

「いやいやだから私じゃなくてこの右手がですね……あるぇ!?」

い、インゴさんが…日本語喋った!!!え!?あるぇ!?昨日まで英語しか話せなかったよね…?うん、だよね…。一晩でなにがあったし!!驚いて目をパチパチさせる私に、笑顔を見せるエメットさんがインゴさんの隣に立つ。

「あのネ?インゴ、昨日の夜からずーっとイッシュの言葉を勉強したの!ボク、スッゴく眠い!」

そう言ったエメットさんの目の下をよく見ればうっすら隈が見える。…え?ちょ……た、たった一晩で…異国語が話せるようになるわけ?学生の時、一夜漬けで英語を勉強して十七点しかとれなかった私には絶対無理だ。…い、インゴさん…すげぇ…。ん?でもなんで私は拉致られたんだ?そんな疑問を浮かべた時、またもやインゴさんが口を開いた。

「アナタの戦いぶりを拝見して、カオル様の事を、知りたいと…お話をしてみたい思ったのデス。…こちらに来るのは面倒だと思っていましたが訂正します。…こちらに来て良かった…」

無表情だったインゴさんが、ほんの少し微笑む。わ、わざわざ私と交流したいがために勉強したってこと?い、インゴさーん!!私はそんなに価値がある人間じゃないんですよ!割と最低な人間です、はい。自覚してるから余計タチが悪いよな。なははは。…だ、だからさ…そんな目をキラキラさせないでくれ…!それカズマサがよく私に向けるものだからな。「カオルちゃん、すごーい!」っていうカズマサと同じだからな!…あぁ、そうだ。ラッピングしたお菓子をソッとインゴさんに差し出す。

「…昨日頭突きしたのと、オノノクスを蹴り飛ばしたお詫びです」

「ねぇ、ボクのは!?」

「無い」

「だと思ったヨ!」

ケラケラと笑うエメットさんが嬉しそうなのは何故だろう。まぁ、そんな私の疑問は見事に吹き飛ぶわけだがな。お菓子を受け取ったインゴさんのはにかむ笑みの破壊力…半端ねぇ。なんていうか、こう……胸がキュンとなるんだ。こ、これが…母性というやつなのか…!?そうなのか!?私にも母性があったんだな!


「カオル様は、やはり優しい方ですネ」

(もしや、あの時の言葉は優しいって言いたかったのか…?だよね!初対面でやらしいは無いと思ったわ!)

「…んー…、でも女の子なんだからもっとお淑やかなladyにならないと」

「黙れ」

「ボクには冷たい!!」



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この後、ゾロアークにぎゅーっとされ苦しむことになる夢主←


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