なにこの地獄絵図。居酒屋の一室にはおっさんやカズマサを初めとする鉄道員共、そして我らがボス…ノボリさんが見事に酔いつぶれていらっしゃる。えっと…とりあえず現実逃避しよう。襖を静かに閉めて溜め息ついた。イッシュ地方には珍しい和風チックな居酒屋に何故私がいるか…。ライブキャスターにな、連絡が入ったんだ…。ベロベロになったクダリさんから。

「…あんた、どうしたんだ?」

『えへへ〜…。いまね、ノボリたちとお酒のんでるのー!だからね、えっとね…ナマエもきてー!』

「迎えにこいとな…」

面倒臭い…。けど、この様子だと周りも潰れている気がするよな。チッ…仕方ない…。他人に迷惑はかけたくないからな。いつにも増してゆるゆるな口元に、とろんとした目…。こりゃ…早くいかんと…。

「で?場所は?」

『ばしょ〜?…んーと、ノボリ〜、ここどこだっけ?…ギアステーションの、ちかくのお店だってー!あははは!』

「何が楽しいんだ酔っ払いめ。…ギアステ近くね?頑張っていくから、待ってなさい」

『は〜い!』

ブチッとライブキャスターを切って上着を羽織り家を出る準備をする。…ぎ、ギアステまでは行けるよな。多分、きっと、恐らく…。分からなかったら人に聞けば大丈夫だよな、うん…。よし…一応お金は多めに持っていこう。

「…酔っ払いを迎えに行ってくるわ。先に寝てて良いからな」

チラーミィ、ランクルス、ゾロアークを撫でて私は家を出た。…無事、ギアステにつきますように。みんな、祈っててくれ…。全く…なんで久々の休日の最後にこんな面倒臭いことを…。はぁ〜…さむさむ。ライモンシティの夜は寒いぜ…。


で、無事目的の居酒屋に着いたわけだ。予想以上の惨劇に私はもう一度溜め息をついた。なんでこんなになるまで飲むんだよ、あんたら…。って、ノボリさんが…ネクタイを鉢巻きみたいに巻いてる…!!なにこれ面白い。って違う違う。今はこいつらを回収しないとだよな…。えーと…。

「双子はタクシーで連れて帰るとして、おっさん達は…ギアステに連れていきゃ良いか」

仮眠室にぶち込めば良いよな。私超優しいわ。…あれ?そういえばクダリさんがいない…?すると、襖が開き先程ライブキャスターに映っていた以上にベロベロなクダリさんが現れた。…うお!危ないなぁ…!自分の足に引っかかって転けそうになるクダリさんを支えて、ゆっくり床に座らせる。

「クダリさん、もう支払いは済ませたんですか?」

「ん!さっき、してきた!」

「そかそか。…なんだかんだ一人だけ動けてるクダリさんは凄いな」

「ほんとー!?ナマエ、ナマエ!ぼく、えらいー?」

「偉い偉い。よしよ〜し」

抱きついてくるクダリさんの頭を撫でながら、いつも以上に子供っぽい彼に苦笑した。…あんた酔うと無邪気になるのな。可愛いと思うよ。さてさて…おっさん達をギアステまで運ぶか。クダリさんにちょっと待ってて下さいと告げ、私は近くに転がった鉄道員を叩き起こしずるずると引きずる作業を二十回程繰り返した。途中おっさんに尻を触られるというセクハラ被害を受けたので、ベッドに叩きつけてやったわ。

ノボリさんの腕を肩に担ぎ、のろのろとタクシーから降りる私とふらふらしながら歩くクダリさんはなんとか我が家に帰宅する事が出来た。…ノボリさんがずっと喋っててうるさいんですけど。なんなの。そうですね〜、っていいともみたいに相槌打つのも面倒臭くなってきたわ。

適当に着替えさせ、ベッドに押し込めば恥ずかしいだのナマエ様は積極的だの意味の分からん事をうだうだ言い始めたがすぐに静かな寝息を立て始めた。はぁ〜、疲れた。あとは、クダリさんだけだ。まぁ、ノボリさんに比べたらまだクダリさんはマシだ。自分で歩けたし、話もちゃんと出来るしな。

ノボリさんを起こさないよう、ゆっくり部屋を出てリビングへと向かった。…あらあらまぁまぁ。ソファに横になってクダリさんが寝ちゃってる。…どうしよう。起こすのはなんかなぁ…でも私が運べるのか?って話ですよ。

……割と出来ちゃったりして。腕をクダリさんの背中と膝の下に、そしてクダリさんの腕を私の肩に回し力を入れて立ち上がる。…わお、お姫さまだっこ出来たよ。なにこれ女として悲しい。

ショックを受けながらもクダリさんを部屋まで運び、いそいそとパジャマを着せて布団を肩までかけてやった。

「……綺麗な顔だなぁ」

静かに寝息を立てる整った顔をまじまじと見つめる。女の私より綺麗な白い肌、すっとした鼻立ち、個性が爆発したようなもみあ…いやもみあげはいいや。しかし…寝てても笑ってるのな。口角を上げたまま眠るクダリさんに苦笑する。そんな彼の寝顔を見ていると、悪戯心が芽生えた。

「…バレないよね」

そっと、クダリさんの頬に唇を寄せる。……起きないね。調子に乗った私は、反対の頬、額、鼻に次々ちゅーをしていった。で、残るはクダリさんの唇なわけだが…流石にそこまでやれないわ。いや散々ちゅーしたけどね!私的に大満足でして、よし私も寝るか、と立ち上がりかけたらパチッと目を開くクダリさん。は?と思う間もなく腕を引かれ、気がつくとベッドの上に組み敷かれたような格好になっていた。

……はぁ!?呆然とする私に、にんまり笑顔を向けるクダリさんはそのまま腕を折る。つまりその、距離が縮まるわけで。息がかかるくらいの至近距離。一体何が起こっているのか理解出来ないのだが!

「僕の寝込みを襲うなんて…ナマエはいけない子だね」

おい。おいおいおい。明らかにさっきと違うじゃねぇか。舌足らずに話していたのに急に普段通りになったではないか。こいつ…全然酔ってないな!?焦る私の唇を奪い、小さな接触音のあとクダリさんはゆっくり離れる。


「っ…もっとちょーだい」


熱のこもった視線で吐息交じりに囁かれ、無意識に頷く私に一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの笑みを見せたクダリさんに抱き締められることとなる。

……ナマエにフラグが、立ちました。




後書き

リョウさまリクエストの「っ…もっとちょーだい」でした。クダリさんまじ天使と見せかけて性的…になっていると、信じています…!← 台詞がやばばば!ですよね。あげるあげる!ってなりますよ!

クダリさんはお酒に強そうなイメージです。酔っ払ったふりをして、襲うぜ!みたいな。あれ、酷い人みたい←
逆にノボリさんはめちゃくちゃ弱そう。そして酔うと面倒臭そう…うだうだ何か喋り続けてそうだ(笑)

それでは…リョウさま、リクエストありがとうございました!