…どのくらい走っただろうか。もう足がガクガクしてる。やだ膝が大爆笑してるんですけど。ちょっと落ち着きなさい。まじで。って、うわああああ!!!肩に乗ってたチラーミィがいねぇよ!ちょ、ど、どっかに落としてきたか…!?後で噛まれるわ…。…ごめん、チラーミィ。今は私の貞操を…貞操を守る事を優先させてくれ。

…右よし、左よし、もう一度右よし。充分に安全を確認し、その場にズルズルと座り込み息をついた。こりゃキツい…。汗だくやないかい。滴り落ちる汗を拭い私は頭を抱えた。よし…ちょっと落ち着いて整理しようぜ。

…あれは今日の昼間…休憩時の事だ。ノボリさんとクダリさんとベンチに座りコーヒーを飲んで休んでいたときだった。他愛もない話から何故か面白いゲームの話になったのだ。

「はぁ…ゲーム、ねぇ…」

「うん、何かないかなぁ?皆で遊べてたのしいやつ!」

…マリカーとか?残念、無いよね。うん、分かってたけどね。しかも私スーファミ時代のマリカーしかしたことないわ。…うーむ、なんかあったかなぁ。てかそれを話したところで何になるんだろうな。その時私はあるテレビ番組を思い出した。

皆さんご存知だろうか。真っ黒なサングラスと黒いスーツを装備したハンターが逃走者を追いかけ回すってやつ。捕まったらアウトだけど、逃げ切れば賞金が貰えるっていうね。簡単に言えば賞金をかけて行う…本気の鬼ごっこだな。

「…とかいうのがありますね。遊園地とか貸し切ってやるんすよ」

「面白そう!…じゃあ、今夜、それやろうよ」

「…はぁ?」

意味わかんないわ。あんた何を言ってんだ?ニコニコと楽しそうに笑うクダリさんに首を傾げる。どういうこと?と話を聞けば、今日は遊園地でライモンジムのジムリーダーさんのイベントがあるらしく、お客様はそっちに流れていくみたいでな。

んで、仕事を早めに切り上げるそうで…その後、お客様のいなくなったギアステでそれをやろうという事らしい。…はぁああ?冗談じゃない。私はさっさと帰るわ。ねぇノボリさん、と今まで静かだったノボリさんを見れば…笑っていた。あ、あのノボリさんが笑った…!?

「…捕らえられたら、言うことを何でもきく…というルールを追加してはどうでしょう?」

「まてまてまて。あんたの方が問題だな。ていうかあんたも賛成なんだね!」
「ノボリのルール採用ー!僕、頑張って追いかけるからね、ナマエ!」

私が逃走者なんですか、そうですか。…いやいや、やるわけないし。ばっかじゃねぇの?既に温くなったコーヒーを一気に飲み干してゴミ箱に投げ捨てる。ナイッシュー!この双子は置いて…仕事に戻るか。チラーミィを肩に乗せ、休憩室を出た私は知らなかったのだ。背後で恐ろしい会議が開かれていたことに。


「僕が捕まえても、文句は言わないでよ?」

「それはこちらの台詞です。ナマエ様を捕らえるのは…わたくしでございますから」


******



全てのお客様が出て行ったのを確認し、今日も一日平和で暇だったわ。途中突っ立ったまま寝てたレベル。…さぁて、帰りますか。チラーミィを肩に乗せ、歩き出した時だった。突然駅構内にチャイムの音が鳴り響く。な、何事?チラーミィも不機嫌そうな声を上げて私に噛みついてくるし…私のせいじゃないからな!そしてスピーカーから…聞いたことのある声が流れる。

『あーあー!これ聞こえてるのかな?大丈夫?えっと、みんなお疲れ様!クダリだよ!今日は、今からみんなとゲームをしたいと思いまーす!ノボリから説明してもらうね!』

『コホン…。皆様お疲れ様でございます。…ゲームは、賞金をかけた鬼ごっこ、でございます。賞金は我々二人から出させて頂きますので』

…ごめん、チラーミィ。ばっちり私のせいやったわ。何やってんだあの二人は…!まぁ、私は帰るけどな!荷物を取りに行こうとしたが、次に流れてきたアナウンスに私は固まった。

『特警のナマエ様を見事捕らえた方に賞金百万円…え?少ない?では五百万円に上げましょうか。五百万円をプレゼント致します。どうぞ奮ってご参加下さいまし』

「まてーい!!!どういうことだっつの!」

思わず突っ込み入れたわ。なにそれ。サブウェイマスターすげぇな!って違う違う違う。私だけ追いかけ回されるの?いじめ?いじめ?いじめ、格好悪い!!おい、ふざけるなよ。あの二人…ぶん殴ってや……ちょ、ちょちょ。皆さん?目が…目が怖いですよ?売店のおばちゃんんんん!!笑顔でこっちに来ないでー!目が笑ってないわ!

『ナマエー!頑張ってにげてね!ちなみにナマエが僕かノボリに捕まったら…』

『昼間、お話した通りでございますので…。ナマエ様、他の方々に捕まるなどヘマはしないで下さいまし』

声のトーンが本気だ。…あ、あいつら私に何をするつもりなんだよ…!?…いや、想像したら十八禁になりそうだからやめよう。今は…全力で逃げる事を考える。それが大事だ。もー、皆やめてくれよな!まじで!

『制限時間は二時間。それでは…十分後開始致します。ナマエ様はどうぞお逃げ下さい。あ、十分の間彼女を追いかけてはなりませんよ。ルールを守らない方は失格とさせて頂きます』

『僕たちが見てるから、ちゃんとルールは守ってね。…ふふ、スッゴいわくわくしてきた!早くナマエを捕まえたいなぁ!』

「誰があんたらに捕まるかよ!絶対逃げ切ってやるからな…。この野郎!」

…あれ?もしかして私が逃げるところも見てるんじゃねぇの?こ、こんちくしょう!!…今まで出したことないような本気を見せてやるわ。覚悟しろよ…!
走り出す私を血走った目で周りの鉄道員が見てくる。何度も言うがめっちゃ怖いんですけど。これはホラーと言っても過言ではないな…。十分後…クダリさんの『はーい、スタートだよー』という気の抜けた合図で、私の貞操をかけた地獄の鬼ごっこが始まったのだった。以上、整理おわり。

「…はぁ〜。もう疲れたんですけど…」

襲い来る鉄道員共を投げ飛ばしながらようやく休める所へやってこれたのだ。しかし此処も長くは保つまい…。何処かないか…安全かつ私しか行けないような場所…。いや…あった。あったわ!…となれば、急ぐしかないな。もう一度周りを確認し、私は駆け出す。おっさんに連れて行ってもらったあのバトルフィールドへ!分かんない人は44話を読んでね!

途中、カズマサとおっさんに捕まりかけたが殴り倒したわ。流石私、強すぎて怖いわ〜。漸く辿り着き、声紋チェックをすればガチャンと音がしてゆっくり扉が開いた。急いで閉めて内側からしっかり鍵をかけた私はガッツポーズをした。あとは時間まで此処で待機しとけば、私の勝ちだ!

勝利を確信した時だった。背後から、何者かに抱き締められて私は固まった。え?ちょ、私の声じゃないと入れないとこだよね?…な、なんで…。驚きのあまり動けないでいる私に、その人物は耳元でクスリと笑った。

「…ナマエ様は単純なお方ですね。やはり、こちらにいらっしゃいました」

「ど、どうやって入りやがった…?」

「サブウェイマスターですから」

なんてこったい。あんたもなかなかチートな存在なのね。…あぁあああ!よりにもよって…ノボリさんに捕まってしまうなんて…!背後から抱き締められていたが、くるりと回転させられ向かい合わせになる。うおぅ…なんだこれは。いつものキリッとした表情は見事に崩れ、恍惚とした表情で笑みを浮かべるノボリさんに私は青ざめる。

誰か、助けてぇええ!心の中で叫んでいると突然、バン!と何かを叩く音が聞こえた。視線を向ければ私並みに青ざめたクダリさんが扉を叩いていた。き、救世主…!?いやこいつに捕まってもアウトやで!!
…って、クダリさんがオノノクスに連れて行かれただとー!?なんてこったい…助けはなしか…。うなだれる私の頬にそっとノボリさんが手を添えて、もう一度正面を向かせられる。なんとも艶やかな笑みを浮かべているがその瞳は少し怒りを含んでいる気がした。


「よそ見厳禁でございます」


…もう、知らねぇからな。後でチラーミィ達に暴行を受けても私止めないからな…!そのまま唇を奪われた私は抗うことを諦めて、目を瞑った。この後の事は…ご想像にお任せするわ…。




後書き

玲さまリクエストの「よそ見厳禁でございます」でした。勝手ながら漢字をひらがなにさせて頂きました…ごめんなさい…orz
そして候補の中から悩み抜いてこちらの台詞で書かせて頂きました!クダリさんも出したら長文になって…しまった…。ごーめーんーなーさーい!!

…十八禁一歩手前、なノボリさんを目指したのですが…うむむ…力不足で申し訳ない…。ちょっとはノボリさんの色気が出てると、信じとります…!
そして楽しんで、喜んで頂けたら幸いでございますー!

それでは…玲さま、リクエストありがとうございましたー!