今日こそは…今日こそはクダリさんに勝ってみせます!ぎゅっとボールを握り締め、スーパーダブルトレインに乗り込む。私、ナマエは元々ポケモンリーグ制覇を目指すトレーナーだったのだが、ギアステーションのバトルサブウェイ…。この場所に迷い込んだあの日から私は廃人と成り果てた。

よくわからずに乗り込んだダブルトレインで私は見事勝ち進み、クダリさんにも勝利したのです!勿論、手加減されているとも知らずに。そしてスーパーダブルトレインへ乗車出来る権利を手にした私は調子にのって、スーパーにも挑戦した。今思うと奇跡に近かったと思います。旅パでクダリさんの元まで辿り着けたのですから。結果は惨敗。倒れていく相棒達に呆然とする私にクダリさんが笑みを浮かべる。

「僕、クダリ。君に勝てちゃった」

「…今までずっと一緒に歩んできた子達なのに!」

その私の言葉にクダリさんは目をパチパチと瞬きさせて、「もしかして旅パ?」と尋ねてきた。悔しくて涙する私は頷く。そんな私に何故だかクダリさんが首を傾げ、とんでもない事を口にした。

「旅パで挑んでくるなんて、もしかして、君はお馬鹿さんなのかな?旅パじゃ、いつまでたっても、僕には勝てないよ」

笑顔のまま冷たく言い放ったクダリさんに私の涙はぴたりと止まる。沸々と怒りが湧き上がりクダリさんを思い切り睨みつけるが、彼は気にした様子も見せず「あーあ、トウヤくらい強いトレーナーいないかなぁ」と愚痴を零している。…トウヤ、さん。彼の弟子になれば、この白い悪魔に勝てるかもしれない!トレインを降りた私はトウヤさんを探し回った。

色んな人に話を聞いて、漸く…漸く私はトウヤさんと接触することに成功したのです!突然話しかけられて嫌だったのでしょう…トウヤさんの冷たい目を私は未だに忘れられません…。でも私の話を最後までちゃんと聞いてくれた彼は無言で私の手を引き、ジョインアベニューという街に連れてきてくれました。訳がわからず慌てる私にトウヤさんがほんの少し笑いかけた。

「…きみのポケモンの努力値を下げて、もう一度振り直そう」

「ど、努力値って…なんですか?」

また冷たい目で睨まれて、涙目になる私にトウヤさんは丁寧に色々教えてくれる。そのお陰で、私は立派な廃人へとなったのだった。でも私の目標はあくまで今のパーティーでクダリさんに勝つこと!あの言葉を撤回させてやるのです!…なのでまだ卵厳選はしたことはない…廃人もどきなのかもしれない。

そんな私がスーパーダブルトレインに挑み続けて、既に半年程が経つ。クダリさんの元に辿り着けても、肝心のクダリさんが倒せない…!いつも負けては「よくやるね」と馬鹿にされるのです…。本当に悪魔ですよ、彼は…!馬鹿にされる度にトウヤさんに泣きつくのを何百回と繰り返してきましたが、今日こそは勝つのです!対峙して、ボールを構える私にクダリさんが溜め息をついた。

「…本当に、君も懲りないね。いつも通り、僕が勝つに決まってるのに。そろそろ、諦めたら?」

「いいえ、私が勝ちます。そろそろトウヤさんに勝てましたって報告したいので!」

「……トウヤ、ねぇ」

……?気のせいでしょうか、クダリさんの様子がおかしい気が…。いや、今はバトルに集中!ボールを投げて、中から出てきた私の大切な仲間に指示を出す。今日こそ、勝つんだから!


******


ガタゴトと音を立てるトレイン。クダリさんと少し距離を取って私は座席に座っている。いつもと同じ。…でも違うところがある!それは、クダリさんとのバトルで勝利出来たのです!クダリさんはとても驚いていました。私は勝てると信じていたけど、もう嬉しくて嬉しくて…!皆にありがとうと抱きついてしまった。クダリさん、ざまぁみろです!今回の勝利はギリギリだったから…次は完膚なきまでに叩き潰しますからね!

…しかし一体どうしたんでしょう。クダリさんがぼんやりしている。いつもなら…もう少しお喋りしてたと思うんだけど。気まずさから脱出したいと悩む私にクダリさんが「ねぇ」と声をかけてきた。

「君のポケモンたち、強くなったね。最初に会った時と、全然違う」

柔らかな笑みを浮かべてそう言ってくれたクダリさん。その言葉に私は嬉しくて、思い切り頷いた。やった!やった!クダリさんに誉められた!これも全部トウヤさんのお陰だ!私はその…調子に乗りやすいタイプでして、そこからずっと自称トウヤさんの弟子だから当然です、やらトウヤさんにも誉められるかもしれないやら、トウヤさんってあの英雄のトウヤさんなんですね!やら…まぁ色々一人で話していたのです。

で、気がついたらクダリさんに抱き締められている…わけで。えっと、えっと、…どうしたんでしょう!?慌ててクダリさんの胸を押すが、逆にぎゅっと力を入れられる。み、身動きが…とれない!バクバクうるさい心臓がクダリさんにも聞こえてるんじゃないでしょうか。そんな私の耳元で、ぼそりとクダリさんが囁いた。

「…あの、ね。僕…ずっと頑張ってる君が馬鹿だと思ってた。なにをしても、僕に勝てるわけないって」

「…それは酷いです」

「でも、何度も何度も…諦めないで僕に挑む君に…僕は、…惹かれてたみたい」

……え?い、今のって告白…ですか!?顔がカァ、と熱くなるのが自分でもわかった。く、クダリさんが…私をすきですとー!?わわわわ…!と、トウヤさーん!こんな時はどうしたら良いんですか…!そのままクダリさんが囁き続ける。

「ナマエが、トウヤの事が好きでも…僕はナマエが好き…!」

あ…、私の名前、知っていたんだ。そこでそっとクダリさんは私から少し距離を取った。私並みに真っ赤な顔をするクダリさんがなんだかおかしくて笑ってしまうと、クダリさんに睨まれてしまいました。…あぁ、どうしましょう。私は…私はどうやら。

「…クダリさんが好きみたいです。あはは…」

「……え?で、でもトウヤの話ばっかりしてる…」

「トウヤさんは師匠です!それにトウヤさんはずっと待ってる人がいるみたいですしね」

そう笑いかければクダリさんは驚いたように目を見開いた。うん、びっくりですよね。私も話を聞いた時はびっくりして叫んじゃいました。そして睨まれましたよ、えぇ…。って、トウヤさんの話は良いんです!珍しくおろおろするクダリさんをしっかり見詰める。

「私、クダリさんを見返したいって思ってました。だから勝てることが出来たら、もうクダリさんに挑戦しない…と思ってました」

そこまで言うと、クダリさんが悲しそうに顔を歪めて、「そう…」と呟く。…でも、でもね?

「今日勝ってみて、…またクダリさんに会いたいって思ってしまう自分に気がつきました。…その、私もクダリさんに惹かれてた…みたいです」

は、恥ずかしい…!私今凄く恥ずかしい事を喋ってしまいました!俯いてクダリさんの反応を待っていると、またもやぎゅっと抱き締められました…!く、苦しいです…!しかしクダリさんはさっき以上に力を入れているみたいで全く動けない。しぬかもしれない…!そんな私の耳にクダリさんの嬉しそうな声が聞こえる。


「好きすぎて死んじゃいそうなんだけど」


私はあなたの愛でしんじゃいそうです…!早く、解放してください!終点まで抱きつかれたままだった私はトウヤさんに鼻で笑われる事になるのだった。




後書き

虹芽さまリクエストの「好きすぎて死んじゃいそうなんだけど」でした。クダリさんがツンデレチックになっちゃいました…。でも新鮮な夢主で、楽しく書かせて頂きました!

…没になった最後で、クダリさんがツンデレからヤンデレに進化するという恐ろしい事になり、暗くなるわ終わりが見えなくなるわで…自重致しました…てへ←
ちなみにトウヤさんの待ち人はNです。勿論友達として!

それでは、虹芽さまリクエストありがとうございました!