やけに紳士なノボリさんはなんとスーパーの荷物まで持ってくれた。信じられない…。いや、ノボリさんって意外と紳士じゃないんだわ。しかし今日のノボリさんは荷物は持ってくれるし、車道側を歩いてくれるし、ドアを開けてくれたりと何かと気にかけてくれる。おまけに、乙女にならないのだ。普段なら帰る途中で最低三回は乙女化するというのに。私はかなり驚いている。

…乙女を…ギャップ王ノボリを卒業するという事か?何故だろう、少し寂しく感じるのは…。いやでも、ノボリさんが素敵な男性になるというのだ。…笑顔で見守ってやろうじゃありませんか。

だが…事件は起きた。そうあれは…夕食の事である。 ノボリさん、ゾロアーク、私でテーブルを囲い談笑していた時だ。あ、ゾロアークは食事の時もノボリさん達に化けてるんだわ。なので一緒に食べている。ポケモンフードを黙々と食べるノボリさんみたいで毎度吹き出しそうになるから困るわ。

「…おや。カオル様、口元にご飯粒が…」

「え?と…とれました?」

急いでティッシュで拭いてみたがノボリさんは首を振る。

「いえまだ付いて…」

おります、的な事をノボリさんは言いたかったんだと思う。しかしその言葉は遮られた。…ゾロアークによって。
拭っても拭っても取れないご飯粒に悪戦苦闘していた私を見かねたのか、ゾロアークがぺろりと私の口元を舐めた。…何度もしつこく言うがノボリさんに化けてるからな。びっくりするよね。でもまぁ…微妙に慣れてきてる自分もいるからそれにもびっくりだわ。…しまったーッ!!の、ノボリさんには刺激が強すぎたかもしれんな…!私はなんとか…フォローしようとしたんだよ…。しようとした結果が…。

「…あっははあ!ゾロアークにファーストキス奪われちゃったわ〜」

なんともアホそうだろ?うん、言った私もそう思うわ。なぁ、これを聞いてどう思う?凄く…フォローじゃないです…。だよなぁ…。その時だ。ダンッ!とテーブルを叩く音で現実逃避する私はハッとした。…の、ノボリさんがキレた。顔を下に伏せていて表情は分からないが、間違いなく…キレてる。私は盛大に慌てた。お、乙女がキレましたよ!皆さん避難して下さい!懲りずに現実逃避する私である。



「………だもん」

「…は?ノボリさん…?」

「カオルのファーストキスの相手は僕だもん!!」

……は?ちょ、待てや、おいこら。今、"僕"って言ったか?"だもん"って言ったか!?凝視する私にしまった!という表情を浮かべて口を抑えるその姿は…ノボリさんじゃねぇ…。…この男はノボリさんと偽ってまで…私にセクハラをしたいというのか?他に可愛い子いるだろうが。わざわざ私に固執するなよ。イラっとした。お、乙女の心を弄びおってからに…!!

「…そんなに私をおちょくって楽しいか?クダリさんよ…。……あれ?待て待て待て。あんた今…」

カオルのファーストキスの相手は、僕だもん…って、あんた!!ま、ままままさかあの医療行為の事を言ってるんじゃないだろうな。いやいやいやそんな事はありません。だってあの時クダリさん苦しんでたも〜ん。私の呼びかけに反応しなかったも〜ん。そうだよな?そうですよね?おい、なんか言えよ。

「…ごめん」

その"ごめん"が何に対してなのか私にはさっぱり分からなかった。私見事に混乱してしまったからな。ちなみに今の私の心情はこちらだ。
▼恥ずかしくて死ねる。
▼物凄い腹立つ殴ってやろうか。
▼遊ばれて悲しいわ泣くぞ。
…悲しい…だと?最後は自分でも良くわからない。とにかくもうクダリさんの顔は見たくなかった。急いでご飯をかきこみ、立ち上がる。

「私、先に風呂入ってくるんで、食べ終わったらそのままにして下さい。後で片付けるんで」

「ま、待ってよ!カオル、話を聞いて!」

「だが断る」

なんとなく追い掛けてきそうだったのでランクルスに金縛りをお願いした。嬉々とした顔のランクルスさん、頼みましたぜ。リビングで悲鳴が聞こえたけど知らん。風呂場に辿り着いた私はずるずるとその場に崩れ落ちた。あぁ…もう、なんだよこれ。泣いてんじゃん、私。




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