いつも以上にざわざわと騒々しいシングルのホーム。ふむふむ…あそこかな。野次馬を掻き分けてやっとこさカズマサの所に辿り着いた。オロオロ右往左往するカズマサと、ギャーギャー騒ぐ二匹のズルズキン。そしてそのズルズキンを抑えている女の子と男の子のトレーナー。…はて、何処かで見たことあるなぁ。ま、いいか。

「待たせたな。大丈夫?」

「カオルちゃぁぁあん!全っ然大丈夫じゃないよ!!」

「…うん、そうみたいだね。でもカズマサ良く頑張ったなぁ。よしよし、後は私に任せとけ!」

何度も頷く涙目のカズマサに苦笑して、私はズルズキン達へと視線をやる。お互い殴りかかろうと暴れているが、トレーナーの子達が必死になって宥めている。…いやこれを解決するのが私の仕事だけど、めんどくせ…。こうなりゃ、実力行使デース。

「嬢ちゃん、坊ちゃん…ごめんね?」

「「え…?」」

ちゃんと断りを入れる所が私の優しさっていうの?おいお前ら、と興奮する二匹に声を掛ければ凄い勢いで睨まれたけどチラーミィに比べれば可愛いもんだ。だがなぁ…ちょっとお前らはうるさいんだよね。…よいしょ。二匹の頭を掴み、思い切り額をぶつけ合わせた。ゴチン、ととても痛そうな音が響く。そして静まり返るホーム。あれれ?野次馬の皆さんさっきまでざわざわしてたじゃん。一体何があったし。まぁいいや。

「よーし。ちょっとは頭冷えたか?じゃあ話を聞こうじゃないか。もしまた騒いだら…今度は私がお前らに頭突きを食らわせるからな?」

にっこりと笑えば少し怯えた様子のズルズキン達はコクンと頷く。うむ、最初から大人しくしてりゃ良いのにな。で、だ。話を聞いてみると嬢ちゃんのズルズキンは相手から睨まれたと言うし、坊ちゃんのズルズキンも同じく睨まれたと言っている。
あ?ポケモンと話せるのって?違う違う。ゾロアークが私にこう…身振り手振りで教えてくれてるのだ。まぁそれは置いといてだ。この事件、早速解決したわ。名探偵だぞえ!カオルちゃん!

「えーっと…お客様の中で鏡をお持ちの方、ちょいと貸してくれませんかね?あ、二つほしいっす」

野次馬の皆さんにそう声を掛ければ心優しいマダムとやまおとこさんが貸してくれた。や、やまおとこ!?まさかナツミ…!?一瞬ざわっとしたけど今は無視だ。無視無視!…よしお前ら、この鏡で自分の顔をよーく見なさい。私が言いたいことわかるよね?しかし二匹は首を傾げている。あれ、わからないかな。傷つくかと思って敢えて言わなかったけど…まぁ気付かない方が悪いよな。

「お前らって目つきが悪いんだよ。だからお互い勘違いしただけって話だ」

私の言葉に固まる二匹と嬢ちゃんと坊ちゃん。え?そんなショック受ける事でもないだろ。だって事実なんだし。…あれ?私結構酷いこと言ったのかしら?…言っちゃったもんは仕方ねぇよ。カズマサもそんな動揺すんなよな!
…チッ、面倒臭いが、なんとか違う方向に持っていって…フォローしてみるか。ゴソゴソとポケットをまさぐり飴ちゃんを二つ取り出す。それを未だ固まる二匹の手に乗せる。

「まぁ出会いはあれだけどさ…この出会いって凄いよな」

「「……?」」

「…長くなるけど聞けよ。まずお前らが誕生した事、これって物凄い奇跡だと思わないか?お前らの両親が生まれてくる確率云々を考えたら…確か数億分の一だったか?」

チラッとカズマサを見るがカオルちゃんが何を言っているか全然分からなーい、というような顔をされた。まじかよ。私そんなに難しい話してるの?いやそんな馬鹿な。…えぇい、ここまで話したんだ全部話しきるしかないよな。面倒臭いけどな!

「それはポケモンだけじゃなく人間も同じくらいの確率だ。それから、お前らが嬢ちゃんと坊ちゃんに出会う確率も数億分の一…もしかしたらそれ以上だな。…まずお前らがきちんと成長出来るのも百%とは言い切れんしな」

「「……」」

「そういう諸々の事を考えてみろ。確かに出会いはちょっとあれだったがさ…。お前らがこの時代で、このバトルサブウェイで、この時間に出会えた。これってさ、凄い奇跡だろ?」

「「……!」」

カズマサは理解してくれなかったが、どうやらズルズキン達は分かってくれたみたいでパァ、と表情が明るくなった。そうだよ。お前らと私が出会うのだって、奇跡なんだからな。よしよしと頭を撫でてやるとなんとも嬉しそうに目を細めている。目つきは悪いが、お前らは可愛いよ。…フォローはちゃんと出来たかな…?と周りの野次馬の顔を横目で見てみる。 なかなか皆さん感動している様子。よっしゃ!やったぜ!
そして騒ぎが無事治まり野次馬達はようやく散っていった。カズマサも仕事に戻っていった。ちゃんと目的地まで辿り着けるか心配だな…。あーあ…まじで疲れたわ。…っと、忘れてた。飴ちゃんをポケットから取り出して嬢ちゃんと坊ちゃんに差し出す。

「嬢ちゃんと坊ちゃんにもこれやるよ」

「あ、ありがとう」

「ど、どうも」

「んだよ…。いらないなら返せよな」

「「ち、ちがいます!」」

わお。いきなりハモるからびっくりするわ。なに?なんなの?あ、もしかして私の事年下と思ってるな…。君らのが背高いもんな。見た所君達中高生くらいだろ?余裕で私のが年上やで。こう見えてカズマサと同い年やで。言ってて悲しくなるわ…はぁ、見回りを再開するか。じゃあな、と手を振って踵を返した。もう騒ぎを起こすんじゃないぞ。面倒だからな。

お?な、なに?いきなり手を繋いでくるなんて、ゾロアークさん、どうしたの?いつにもまして上機嫌なゾロアークに首を傾げた。…そういや、さっきの話している時も嬉しそうだったよな。…あ、そっか。そうだな…お前との出会いも本当に奇跡だよね。…これからも宜しく頼むよ!だがな、今ノボリさんの姿をしてるって事を忘れないでね!!



「…無茶苦茶だったけど…なんか格好良かったね、あの人」

「そうだね…。あ、ねぇ…折角だし君の名前教えてよ。僕はトウヤ!」

「あたしはトウコ!…あはは!あたし達、名前そっくりね!」

「本当だね!…これも奇跡なのかな?」




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トウトウでした\(^O^)/
今後出るかはわからんが…←



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