こうして慌ただしかった一日が終わった。……と、思ったろ?ところがどっこいまだ続きがあるんだな、うん。本当…まさか看病イベントの続きがあるなんて私は考えてもいなかった。…まぁ、詳しくはWEBで。間違えた、あとで。

「落ち着きましたかね?」

「…うん、ありがとう」

泣いたせいで少し目は赤いが、いつもの様に笑顔を浮かべるクダリさん。うむ、泣いてスッキリしたみたいだな。しかしそのままにしていたら腫れてしまいそうだ…。濡らしたタオルでも持ってこよう。
私気が利く〜。布団をクダリさんの肩までかけて、どっこいしょと立ち上がる。そんな私を見てクダリさんが、あ、と小さく声を上げた。その顔はまるで親に置いていかれた…迷子みたいな不安そうな顔。…馬鹿やろう。たった今言ったばかりなのにそんな顔するなよな、と苦笑を浮かべる。

「目が腫れないように濡れたタオルを持ってくるだけです」

「本当?カオル、すぐ戻ってくる…?」

「戻ってきます。…今日はもう外には出ないからそんな顔しないで下さいよ」


まぁ、風邪引いた時って何故か寂しくなったりするからクダリさんの気持ちは多少は分かるが、ちょっとこれは寂しがり過ぎやないか?このままだと私この部屋で寝ることになりそうなんだけど。

…今考えるのは止めとこう。とりあえずタオルを…ヒィッ!!ど、どうしたお前ら!クダリさんの部屋を出ると恐ろしい顔をしたチラーミィとそれとは真逆に無表情なダブランが私を待ち構えていた。チラーミィは通常運転だが、だ、ダブラーーン!?あなたの迫力に私悲鳴上げちゃったけど!?

え?まじでダブランどうしたの?さっきご飯あげたよね?…こ、こいつらの事も気になるがとりあえずタオルをダッシュ…いやマッハで取ってこよう。
無心で私の足を蹴り続けるチラーミィと無表情ですり寄ってくるダブランを撫でてタオルを取りに向かったのだった。

「クダリさん、お待たせ…おや…」

恐ろしい二匹を部屋の外に置いて、戻ってくればクダリさんはすうすうと穏やかな寝息を立てていた。泣き疲れちまったかな?…うーん、タオルどうしようか…。持ってきちゃったし、額に乗せとこか。そうしよう。勿体無い精神は大事だよな。よし、では…。起こさないように、ソッとクダリさんの額にタオルを乗せる。

「…う、ん…」

起きたかな〜?と思ったが、小さな声を上げて少し身じろいだだけで目を覚ます事はなかった。ふむ、暫く寝かせて…私はご飯でも食べてこよう。あ、先に風呂に入ろ。スッキリしたいでごわす。部屋の電気を消して、そろりと風呂場へ向かった。



******



ハッ…!ね、寝てたわ…。よ、涎がジュルジュルやないかい。風呂入ったのに汚くなるとかどういう事や。…うおぉ…。すっかり日が落ちて外は真っ暗。クダリさんの様子を見に行かんと…。大きく欠伸をしてソファから立ち上がった。

ヒィッ…!!ダブランがこっちを…み、見ている…。な、何なの?私ダブランに殺られるの?いやいやいやそんなバッドエンド嫌ですから。お断りです、はい。

あ、そういや薬飲ませてなかったわ。ついでに飲ませましょう。そうしましょう。お盆に薬と水を乗せていざ出発ー。この時のほほんとしてた私を殴打したい。まじで。カチッと電気をつけた私は固まった。


「く、クダリさん!!」

私の言葉に反応もせず、ただ苦しそうに呼吸している彼に頭がパーンとなりかけた。が、なんとか持ち直したぞ!しっかりしろ、私。とりあえず…タオルを取ってと…あとは何をしたら良いんだ!駄目だ…既にパーンってなってるかもしれん。どうしようどうしようと部屋をグルグル回る間もクダリさんはゼーゼーと呼吸を繰り返し、顔は苦しげに歪んでいる。

…どうすれバインダー!!!!今まで一人で生きてきた私は分からないよー!え?お前どうしてたって?こんな酷い風邪引いたことないわ!そうして慌てる私はある物に視線がいった。お、お前は…!

「そうだよ!薬があるじゃん!…って、この状況でどうやって飲んでもらうんだよぉぉおおお!!」

床に手をついてアホみたいに叫ぶ私。きっとまたご近所のご迷惑となってる事でしょう。いやまじで叫ぶよ。…こ、このままだとクダリさんが死んじゃう。うわわわわ!!やだやだやだ!!頭の中で棺に入ったクダリさんに泣きつく自分の姿をうっかり想像して涙目になった私は気付いてしまった。ある方法をな。まぁ、もうね、乙女ゲーやりすぎだろと。お前はアホかと…思ったが苦しそうなクダリさんを見たらこれしかねぇわな!!

ごめん、クダリさん。…いや、謝る必要はないよね。だってこれは、医療行為だから!口にポイッと薬を放り込んで、そして水を含む。…危ない危ない。自分で飲みそうになったわ。…よし。彼が眠るベッドに手をつけば、ギシリとベッドの軋む音がやけに響く…な、なんか卑猥だわ。いや、医療行為だから!!そう心の中で叫びそのまま唇を重ね、薬と水を流し込むようにする。…ちょ、薬を押し返そうとクダリさんの舌が動い…むむむーー!!か、絡まっ……!!

「ん、んーー!!……ぷはぁッ!」

予想外な事態に慌てたが、ゴクンと喉が上下するのを確認して私は急いで離れた。…お?クダリさんは先程より落ち着いてるみたいだ…。え、あの薬そんなすぐ効くのか?あ…そうか、ここはポケモンの世界だもんな。体力と異常ステータスを全快に出来る回復の薬があるくらいだ。不思議じゃない…。まさに科学の力ってスゲー!ってやつだ。

「私のファーストキスが…。いや、違うよ。これは医療行為です…なのでカウント致しません…」


そうです。医療行為です。医療行為だから…クダリさんもさーせん。意外に唇柔らかいとか思ってさーせん。……よくよく考えたら私とんでもない事したんじゃね?く、クダリさん起きてないよな…起きてたら死ぬぞ私。
…薬も飲ませたし、もう私も寝よう。今日は疲れたわ。電気を消して、フラフラと廊下に出た私は身体が動かなくなった。な、なんで突然金縛りに……ハッ!!

「だ、だだだダブラン…」


無表情なダブランさんの身体がぼんやり光っている。さ、サイコキネシス…だと!?慌てる私を華麗にスルーして、ダブランが小さく声を上げれば、ダダダダ!!と何かが走ってくる音が…必死で目を動かすとチラーミィが凄い速さで走ってこちらに向かってきた。お、お前ら…。


「ぐふぉ…!!!!」


チラーミィの、全力すてみタックルが私の腹に直撃。な、なんてコンビネーション…だよ。薄れゆく意識の中見たのはご機嫌そうなダブランと構えやぁ!!と頭突きを食らわしてくるチラーミィの姿。ダブランが…ヤンデレだとは思いもしなかった…。
看病イベントの…馬鹿やろ…う。




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