さてすっかり平々凡々な生活をしているカオルさんですよっと。…嘘をついてしまった。意外と平々凡々ではないのである。今私は5番道路と16番道路とライモンシティを行き来しながら生活している。毎日が野宿である。もう正直しんどい。けど、嫌な事ばかりではなかった。トレーナーでさ、バックパッカーって人達いたじゃん?あの人達に助けて貰ったったー。

もうね、人の優しさって凄いね。あなた達はあれか、バファリンの進化した姿かと涙しそうになった。いや…本当に良かった…んだけど、如何せん彼等はバックパッカー。一つの場所に留まる事はしないわけで…。


「カオル…。めちゃくちゃ不安なんだけど…本当に大丈夫か?」

「そうだよ〜…。ね、私達と一緒に行こ?」


優しい二人の言葉にうっかり頷きそうになるけど、心を鬼にしてごめんなさい、と伝えた。本当は私の野宿デビューだったあの夜に次の町に移動する筈だったのを、このお二人は私の為に一週間も側にいて色々教えてくれた。これ以上、甘えられないし…ポケモンを持てない私はお荷物以外の何者でもないから。


「がんばるっす…。生きていくっす…」

「あぁ…もう…。カオルは頑固なんだから…」

「わかったよ。…たく、野垂れ死ぬとか…止めてくれよ?」


タカオさんにわしわしと頭を撫でられて、私の涙腺は崩壊しそうになったがギリギリ保ってくれているようだ。がんばれー!涙腺がんばれー!そんな私に寄り添ってくるチラーミィとユニラン。…お前達は優しいな…ありがとう。


「この子達がいてくれるなら…ちょっとは安心だけど」

「でもカナエさん…私のポケモンじゃないですよ…。野生の子達ですからね」

そう、私に懐いているこの子達は野生のポケモン。ゲームでさ、濃い草むらに入ると二匹出てくるじゃん?…野宿デビューの日に私はそれを食らったわけよ。まぁ素手でボコしたけども。それ以来…なんか懐かれてしまったんだよ。普通ボコされたヤツがボコしたヤツに懐くか?で、考えたんだけど戦友って思われてるんじゃね?って。まぁ今その話は置いておこう。


「…いつまでもこうしていてもしょうがない。カナエ、行こう」

「えぇ…。カオル!またいつか、必ず会いましょう!」

「絶対!会いましょう!私その頃には働いてると思うんで!」


私の言葉に二人はクスリと笑ってくれた。最後は…笑顔で別れるのが良いよね、やっぱりさ。二人につられて私も自然と笑みを浮かべる。そんな和やかな雰囲気の中、カオル、とタカオさんが呟いた。

「喜びは一瞬、幸せはずっと…」

「はい?」

「そいつらの、側にいてやれ。トレーナーじゃなくても良いさ。ポケモンはお前が望めばずっと、側にいてくれる…それって幸せな事じゃないか?」

「…お前達、一緒にいてくれんの?」

二匹に問い掛けて見れば、当たり前だろ、戦友!と言うように腹を殴られた。こいつら…意外と好戦的だからな…!!その様を見てまた二人は笑ってくれた。…うん、タカオさん、ありがとう!

「ありがとう、ございましたぁー!!」

二人が見えなくなるまで手を振って、暫く私はその場に突っ立っていた。一人で生きると決めたけど、やっぱり寂しいや…。

「…寂しいわ〜…。ごふぁッ!!」

チラーミィのすてみタックル!▼っておい!ふざけんなよ!!と睨むと逆に二匹に睨まれてしまった。…なんだってんだよ…。あ、…私が寂しいって言ったから?小さく聞いてみれば物凄く縦に首を振る二匹。お前らは…全く…。


「…ありがとう、な」

ぎゅうぎゅうと抱き締めてやれば、嬉しそうな声を上げる二匹。あぁ、うん。お前達がいるなら私は幸せだよ。ありがとう、ありがとう。…うん、決めたぞ。働いて、お前達を養ってやるからな!そうと決まれば…!!

「いくぞ、ライモンシティのハローワークへ!!」

勝どきを上げるかの如く、はしゃいでいる二匹には悪いが…残念なお知らせがあるわけで…。

「あー…私ボール持って無いから、お前らはここで待機な!」

一瞬で静かになる二匹。大喧嘩が始まるまで、あと15秒。





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