車にひかれる瞬間は、スローモーションになるって話を何度か聞いたことはあったが本当だとはねぇ〜。トラックに吹き飛ばされて、ぐしゃ、と嫌な音を立てながら地面に叩きつけられた。いってぇ…。まじでいってぇ!!!!こりゃ、あれだな、しぬな。ゆっくり瞼を閉じ、あ、ポケモンクリアしてねぇわ、とか死ぬ間際にどうでも良いことをぼんやり考えていた。

野次馬の声やら、救急車のサイレンの音が遠退いていく中で、頭の中ではっきりと声が聞こえた。


「あっちゃま〜…」


誰だ!人が死ぬってのに阿呆みたいな声だしやがって!!そう思った瞬間、ぶつりと意識が途切れた。



******



「……あれ?」


トラックに吹っ飛ばされて、私は死んだはず…。パチリと目を開ければ私は真っ白な空間に突っ立ていた。まじかよ…死後の世界ってヤツか?キョロキョロと見渡す私の耳に、テレビをつける時に聞こえる様なブーンという音が聞こえた。見れば、大型トラックと、血まみれで横たわる私の姿が何もない空間に映し出された。


「おぉ…グロいわ…」
はぁ…なんとまぁ…。派手に死んだな、おい。私は小さい頃から物静かで目立たない人間だったのに、死ぬときはこんなに目立つなん…って、おいおいおいおい!!!!下着やらなんやらかんやら丸見えやないかい!!!!みるなぁぁぁぁ!!そんな所をみるなぁぁぁぁ!!!!!!


「やめろ、やめてくれ!!救急車の人ー!!早く私を回収してぇぇぇぇ!!!!」

「あっはははは!!!!きみ、面白いね!」

「うおっ!?」


び、びっくりしたー!!画面に向かって必死に叫ぶ私を指差してゲラゲラと笑う男性がいた。い、いつの間に私の背後に…てか誰だよこの人。ゲラゲラ笑う男性を観察してみた。サラリと長い灰色の髪を一つに結び、灰色の着物を着ている男性はゲラゲラ笑ってなければイケメンなんだろうな。

…ん…?さっきまで誰もいなかったはずよね…。ちょっと考えてみよう。

私死んだ=ここは死後の世界
そんなとこに突然現れる=人間じゃない
人間じゃない=………?


ということは、……ままままさか!!閻魔大王…!!閻魔大王(仮)は落ち着いてきたようだ。涙浮かべるまで笑うなんて…私の想像する閻魔大王とは全然違うな。や、やばい!体が震える…!そんな私に気付いてはいないだろう閻魔大王(仮)は指で自分の涙を拭いながら私に向き直った。

「はー…笑い疲れた。自分の死んだ姿を見て、そんな事で騒ぐニンゲン今まで居なかったよ!」

「そ、そうでございますか…」

やっべぇぇぇ!!私舌引っこ抜かれるんじゃない!?想像したら口の中がめちゃくちゃ痛くなってきた。いたたた、と口を押さえる私に閻魔大王(仮)は首を傾げた。

「大丈夫かい?」

「大丈夫…です」

「良かった!!…ぼくはね、きみにとっても大事な話をしなくてはならないんだ」

「……!!!!!!」

き、きたぁぁぁぁ!!!!地獄行き宣言!!ガクガク震える体を叱咤し、ゴクンと唾を飲み込んだ。…死んだ私に怖いものはない!さぁ、閻魔大王(仮)よ…地獄に落ちろと言うがいい!!…や、やっぱ怖いから優しく言ってくださいぃぃぃ!!ぎゅっと目を瞑ると、パン!と音がした。…え?

そろりと目を開ければ閻魔大王(仮)が手を合わせて、頭を下げている…うえぇぇぇぇ!?なんでだ!?

「ちょ、ちょ!!一体どうしたんですか!?」

「…手違いなんだ」

「な、何がですか?」

「きみが…死んだのは…」


…あん?


「と、いうことは…私は無駄死に?」

「……本当に!!本当にごめんなさい!!謝って許される訳ないのはわかってる!!でも…でも…ごめんなさい…」

ボロボロと泣き出す閻魔大王(仮)をぼんやりと見詰める私の頭の中は大混乱中。…無駄死に、か…。てことは、死ぬ前に聞こえた声はこの人だったのか…。や、やばい…ちょっとショックだけど、閻魔大王(仮)を泣き止まさないと…!!

「やっちゃったもんは、仕方ないです。…まぁ、ショックだけど、さ」

苦笑を浮かべて見せれば閻魔大王(仮)はまた小さく「ごめんね」と呟いた。あーあ、せっかくのイケメンが涙と鼻水で台無しですよ。ゴソゴソとポケットを探れば、駅前で貰ったティッシュがあったのでそれを差し出した。ちょっとぐしゃぐしゃだけど許してくれ。

「閻魔大王様どうぞ使ってください」

「ぼくは閻魔じゃないけど…ありがとう」

閻魔大王じゃない?じゃああなたは誰ですか?鼻をかむ彼をじっと見詰めても検討がつかない。とりあえず彼からしっかり話を聞かなきゃな。うん。



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