急に引っ張られてびっくりした私はずっこけるかと思ったがなんとか頑張ってくれた我が足を褒め称えたい。よく踏ん張ったな!で、いきなりなにしてくれんの?クダリさんよ。走りながら睨もうとした時だ。隣を走るノボリさんが派手に転倒した。な、なんだってー!!見れば、ノボリさんの足には草ポケモンの蔓が絡まっている。…の、ノボリさんが捕獲されてしもうた!!しかも顔面から転けたよ…痛い痛い痛い!見てるこっちが痛い!だが…すまん。私に助ける余裕は、無いのだ!

「ノボリさん…生きろ!そなたは美しい!!」

「カオルさまぁああああ!!」

ノボリさんの断末魔の叫びが、黄色い声にかき消されていくのを背中で感じながら、私とクダリさんは走り続けたのだった。ノボリさん…ガンバッ!で、引っ張られながら私と彼はある部屋に逃げ込むことに成功。スタッフ以外立ち入り禁止だから…奴らが来ることはないだろう。…いや、でも怖いよな。

「一応鍵かけときますね…」

「え?…あ、う、うん!」

妙にどもるクダリさんに首を傾げるが今は安全確保を優先しなくてはならない。女子共の本気は…怖いからな。カチャ、と鍵をかけて漸く安心した私は溜め息を吐いた。…もうここから出たくない。ん?てかここ何?連れて来られたのは良いけど、ここ何処や?清潔感のある真っ白なベッドが部屋の中央にドカンと鎮座している。…えっと…もしや…。

「ここ、仮眠室か!へぇー、私初めてきた!」

仮眠室ってさ、こう…二段ベッドが四つくらい並ぶ、狭い感じかと思ってたけど個室なんだな。凄いなぁ凄いなぁ、とベッドに乗り込む私でありますよ。おぉ…ふかふか。これはよく眠れることだろうな。修学旅行に来た学生のように、大きなベッドにはしゃぐ私を見て、苦笑を浮かべるクダリさんが口を開いた。

「ここは、僕たち、サブウェイマスター専用の仮眠室。で、カオルが乗ってるベッド、僕のだよ」

「……そ、それは失礼した。あんまりふかふかなもんで…」

「あ、ちがう!怒ってるんじゃないの!」

そ、そうなのかい?てっきりどけよ、って遠回しに言われたのかと思ったぜ。…違うなら良いか。ふはは!ふかふかやで!このベッドふかふかやで!!ゴロゴロとベッドを堪能する私である。コロンともう一度転がり仰向けになって天井を見る。ぎしっと、軋む音がして視線を向ければ帽子と制服を脱いだクダリさんがベッドの端に腰掛けている。自分のベッドなんだから横になれば……しまった。私が占領してるんだったな。そいつはすまんかった。よいしょ、っと。

「ごめんなさい、調子に乗りすぎたわ。ささ、どうぞ横になりなさいな」

「カオルが降りなくていいよ!…えっと、…その、ね?えっと…んーと…」

なんだなんだ。人が気を遣っているのに…何故に顔を赤くさせているんだい?カオルさん、ちょっと意味わかんないよ。まるで、あれやん。乙女化したノボリさんみたいやん。あんたに何があったし。首を傾げる私は、顔を真っ赤にして両手の人差し指同士をつんつん、と合わせてもじもじするクダリさんを見つめる。なにこの成人男性、可愛い。えーとな、あれだあれ。効果はばつぐんだ!▼

脳内のカオルさんたちが大ダメージを受けているとも知らず、可愛らしい仕草をするクダリさんは意を決したように口を開いた。

「一緒に、寝たら駄目…?」

駄目に決まっているだろうが、馬鹿たれ!と普段の私ならば吐き捨てていただろう。うん、普段の私ならな。だがな、今の私は…そう、ポケモンの異常ステータスでいう"メロメロ"状態なわけだよ。うん、まぁ、皆さんには私が言わんとしていることが伝わることだろう。私な、あれだけ折ってきたフラグを…自分で立ててしもたんや…。

「…ま、まぁ、良いけど」

「ほんとー!?やったー!」

そんなに喜ぶことないんじゃ…と思ったが、そういやこの人私が…す、すきだったね。いや忘れてたわけじゃないけどさ?ん〜…なんだろう…現実逃避?的な?…最初は、友達や仲間としてのすきだった私の気持ちが…変わりつつあることに関しての、な。 ってカオルさん恥ずかしいー!違う違う違う。私はこんなキャラじゃねぇわ。今の無し無し!ちょっと、落ち着こう。そうだ、横になろう。ベッドに転がり、また天井を見る。クダリさんが私の隣に来たのだろう。ぎしりとベッドが軋む。

「……」

「……」

お互い無言である。…もしかして寝たのかな。そう思い視線を隣にやればバチッと目が合う私とクダリさん。お、起きてたんかい…。もしかしてずっと見られてたのか?まじで?恥ずかしいから止めてくれ。…くそ!なんだってんだよ!…フラグ立てたのは私だけどさ!こう…じっと見られると…気になるっていうか、気になるっていうか…気になるんだよ!

「…なんすか?」

「カオルのほっぺた触ってもいい?」

「(ほ、ほ、ほっぺ!?)…どうぞ」

ぱぁ、と輝かんばかりの笑顔で、ありがとう、というクダリさんが手を伸ばして私の頬をゆっくり撫でる。恥ずかしいです、はい。私どないしたらいいのん?いや、まぁ、なにも出来ないけどね!なんかやれって言われても無理だけどね!!…嬉しそうな顔しちゃって……良かった。守ることが出来て。…うむ、やっぱり私は。

「クダリさんの笑顔がすきだなぁ…」

「……え?」

「……ん?」

なんということでしょう。パチパチと瞬きする彼の顔が、徐々に赤くなっていくではありませんか。って、あれ…!?い、今の口に出てた!?うそ…え…あるぇ!?いやいや。いやいやいや。さっきのはあれじゃん。カオル心の俳句、的な…そういうやつだったはずだろ。それがどうしてうっかり口から出ちゃうんですか。なんなんですか。…え?気持ちが溢れちゃった的なやつ?まじで?私どんだけクダリさんがすきなんだって…うぉおおおい!?ちょ、いかん…。メロメロの効果が強過ぎて頭がおかしくなってきた。

「ごめん」

は?ちょ、ちょ、おい、なにしやがる!という言葉は言えぬまま、ぎゅっとクダリさんに抱き締められる私。壊れ物に触れるように、優しく、大切に。お…おうふ…。な、なんて言うんでしょうか…えぇと、そうだ。フラグ、第二段階目立ったったー。あっはっはー。…うそだろ?まじで?

「くだ、くだ…く、クダリ、さん」

「カオル、ごめん。ぎゅって、しちゃった。でも、カオルが嬉しいこと言うから、カオルにも責任がある!」

「いやいやいや」

責任云々じゃないだろう。…あ、いかん。あったかくて、あんしんして、…ね、ねむくなってきた…。いや、ここで眠ったら駄目だよな!ちょ、がんばって目を開けねば…。奮闘する私の顔をじっと見てクダリさんが笑みを浮かべる。

「ねむい…?ねてもいいよ。お布団かけてあげるね」

「わぷ!…って、あかんあかん。ほんとに寝てしまうわ」

「カオルはいつも働き過ぎだからたまにはいいよ。…ぼくが傍にいるから、ゆっくりおやすみ」

肩肘をついて、あやすように私の肩をぽんぽんと叩くクダリさんの表情がすんげー優しい。そんでもって、すんげー眠たい。マイガッ…寝顔見られるの嫌だが、瞼が重し…。強烈な眠気に抗おうとするのですが、如何せん睡魔…いや睡魔さんに勝てないよな。私ですら全敗ですよ。睡魔さんに勝てる人なんかいる?いないよな。…うん、無理だ。目を瞑った私の耳にクスリと笑う声が聞こえた。

「…おやすみのキス、させて、ね?」

柔らかい感触が唇に。根性で目を開いたが多分半開きだな、こりゃ。不細工ですまんな。だが構わん。クダリさんの唇、柔らかくてすきだよ、と呟いた所で私は目を瞑る。も、もう一回言って!と騒ぐクダリさんに抱きついて、おやすみ、と夢の世界へ旅立つ私だった。こんなつもりじゃなかったのにな。でも、悪い気はしない。


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