私の手を引いたのは、いつもより険しい顔をしているMr.ブラボー…間違えた。ノボリさんだった。へ?と思う間もなくノボリさんは反対の手でクダリさんの手を掴み、あろうことか女子共の方へ投げた。なにをって…クダリさんをだよ!!って、えぇぇぇ!?

「クダリ、グッドラックでございます」

「の、ノボリのばかぁあああ!!」

バランスを崩したクダリさんはそのまま転けてしまい女子共の…餌食に…!くっ…!クダリさん…あなたのことは忘れない。クダリさんという尊い犠牲があったから、私たちはこうして…って違う違う違う。ノボリさんが切り捨てたんだったわ。お、恐ろしすぎるぜ…この人は…。そのまま私はノボリさんに手を引かれ、執務室へと連れて来られた。内側からしっかり鍵を掛けて、漸く解放されたと安堵の息を吐く。…いや〜、今日は疲れた。走り疲れたわ。明日は足パンパンだなこりゃ…、最悪やで。今夜は揉んで揉んで揉みまくるわ。

「…クダリさんは大丈夫だろうか」

「クダリならきっと生きておりますよ」

「あ、あんたって人は…」

いや、まぁ…私も助かったし…強くは言えないよな。うん。心の中で合掌する私である。ノボリさんも疲れたのだろう、帽子とコートを脱いで椅子に座り込んでいる。…ふむ、なんか飲み物でも作ってやるか。作るものは決まってるけどな!いえす、ホットミルク。走った後にホットミルク?ってなるけども、多分…いやきっと喜ぶからな、彼は。温めた牛乳にたっぷりのメープルシロップを入れてぐるぐる巻き混ぜれば…ノボリさんの好きなホットミルクの完成でーす!…ラム酒を入れても美味いかもしれんな。

「ノボリさん、どうぞ」

彼のマグカップをことりと差し出せば、一瞬驚いた顔をしたが、ぽぽぽ!と赤くなる彼に苦笑する。予想通りの反応だな、おい。ちなみに私はコーヒーを作った。砂糖が少なかったのか苦くて内心涙目な私だ。そんな私とは正反対に嬉しそうな表情でマグカップに口をつけるノボリさんはなんとも可愛らしい。

「…美味しい?」

「えぇ、とても。優しく心が温まる…まるでカオル様のようです」

「ノボリさんは私を過大評価し過ぎだ…。そんなに私は良い人じゃないっすよ」

…うぅ、コーヒー苦い。飲みきれる自信がないんですけど。砂糖足せよって?砂糖な…切れてたんだよ。これでも頑張ってへばりつく砂糖を入れたんだぜ?結果苦いけどな!なははは!そんな表情は出さずにチビチビとコーヒーを飲む私をノボリさんが静かに見つめているんだが…どないしたん?

「カオル様…、カオル様はご自分でも気づかれていないくらいにとても優しい方なのです」

いつも下がっている口角は上がり、綺麗で柔らかな笑みを浮かべるノボリさん。…整った顔って羨ましいよな。全く…ノボリさんとクダリさんだけだからな、私のことを優しいとか…言うのは。んなことねぇっての!優しい人間は人を蹴り飛ばしません。ここ、テストに出るから覚えときなさい。

「私の何処が優しいっていうんだか…」

これ。これを呟いた私は航海した。間違えた。後悔した。いきなり海賊王になるとこだったわ。…えぇとな、キラキラと瞳を輝かせるノボリさんが、「沢山ございます!」と私の優しい所を無限に上げようゲームをし始めて私は見事に固まったわけだ。いや…もう聞いてて、恥ずかしい…。え?聞きたいの…?チッ…わかったよ。ただのノボリさんの色眼鏡だってことを先に伝えとくわ!

「まずカオル様は、このギアステーションをお守り下さいましたし、わたくしの様な人間にも優しく接して下さいました…。仕事の他に我が家の家事に洗濯までして下さる!…い、いけめんと仰って下さった時もわたくしは嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。先日も…単身で我々をお救い下さいましたね…。本当に…感謝の気持ちでいっぱいでございます…。そして!」

「ま、まだあるの!?」

も、もう私は死にそうです。誉められて殺されてしまう…!やめて!私のライフはもう既にマイナスなの!…あれ、それって死んでるやん。いつもより饒舌で、興奮した様子のノボリさんが立ち上がると私の頬を撫でて、熱っぽい目で私を見つめる。やめろ。フラグを立てようとするんじゃない。

「わたくしがお願いした通り、こうしてホットミルクを作って下さり…、邪な気持ちを持ち続けるわたくしの側にいてくれる…。そんな優しく、少しお馬鹿さんで可愛らしいカオル様が…愛しくて愛しくて…」

超至近距離に目を瞑るノボリさんの顔。長い彼の睫毛が当たってチクチクするではないか。そして柔らかい唇と、甘いメープルの香りに頭がくらくらしそうだ。というか、おい!!い、いきなりちゅーって…ちゅーってなにそれ!?拳を握り締め殴ってやろうとしたが、察知したのかわからんがノボリさんがそっと離れていく。ちゅ、と可愛らしい音を立てながらな。一気に顔が熱くなるのを感じつつ、ノボリさん!と声を荒げる。が、慈しむように目を細める彼が「もう一つ、ございましたね」と口にする。

「口付けても、怒りはしますが、わたくしを嫌いにならないでくれます。とてもお優しい…」

そ、そう言えばそうだな…。普通こんなにちゅっちゅっされたらどうなる?殴る蹴る警察呼ぶくらいはするよな…。なんで、私は…平気なんだ?そこまで考えてハッと息をのんだ私の顔がまたもやカァ、と熱くなる。え、うそ…もしかして…私…ノボリさんが…。いや、そんな馬鹿な!ないない!このドキドキはあれです。吊り橋効果的ななにかです。なのでノボリさんにドキドキしてるわけじゃ……うひゃ!な、ななな何事!?セクハラ!セクハラですよ!

ノボリさんに顎を持ち上げられて、焦る私をそりゃあもう楽しそうに見つめる彼はいつもの乙女じゃねぇ…お、狼や…狼さんやで!!逃げようにも、反対の手で腰をガッチリホールドされているため自由に身動きがとれまっしぇーん!カオル、アウトー!!って、ちがーう!!

「なに、してんの…!?」

「…ふふ、やはり、振り解こうとはしないのですね」

「ばっ…ちがっ!」

「そのように、可愛らしい反応をされたら…」

…わたくし、自惚れてしまいますが、宜しいでしょうか?、とそれはもう腰が砕けるくらい低い声で囁かれ石膏像もびっくりな程固まる私は小さく、勝手にしろ、と呟くことしか出来なかった。あーあ、こんなはずじゃ無かったのにな!誰にも渡さないとでも言いたげに私を抱き締めるノボリさんの腕の中で目を閉じた。…あったかいな、馬鹿やろうめ。


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