ギアステーション前に辿り着いた私はその人の多さに驚いた。野次馬にマスコミに警察…こりゃプラズマ団もびっくりだろうな。そして私は思う。どうやって侵入しよう。いやな、ギアステの入り口には規制線が張られ、警察が何人も立っているから入れる気がしない。てか入れないよな、これ。えぇぇ…意気込んできたのにいきなりバッドエンドかよ。

ど畜生め…悩む時間すら惜しいというのに…。ぎりっと歯を食いしばる私にゾロアークが心配そうな表現を見せた。あぁ…すまん。私が落ち着かないといけないもん…な。ハッ…!!!閃いた!三匹を連れて人混みを掻き分け、人通りの少ない路地に入る。…よし、誰もいないな。充分に確認した私はゾロアークを見つめる。

「イリュージョンで我々の姿を見えないように…」

出来るか?と問えば、ゾロアークは頷き目を閉じた。彼の身体が光ったかと思うとそれは私やチラーミィ、ランクルスを包む。お、おぉ…なんかすげぇな。その光が徐々に弱くなるとパチッと目を開き、笑顔になるゾロアーク。これで…大丈夫ってことだな?ありがとう、ゾロアーク。頭を撫でてやれば、嬉しそうに目を細める彼に釣られ、笑みが零れる。

「よし…お前らいくぞ!」

とは言ったものの、本当に見えてないのか?ちょっと不安だったが、警察の目の前に立っても何も言われないではないか。イリュージョン…半端ねぇ。透明人間になった気分だぜ!高まるテンションを抑え、規制線を乗り越えた私たちは一気に駆け出す。皆は何処にいるんだ?ギアステ内を走る間に何人ものプラズマ団員とすれ違ったが誰も気づいてない。…こりゃ意外と簡単にいくかもしれんぞ。

だがまぁ、やはり現実というのは甘くはなかったわ。暫く走り続けたが、一向に人質たちの姿が見えない。…ッチ、どこにいるんだよ。焦りばかりが募り、思わず舌打ちをする。くそ!プラズマ団め…!人質解放したら覚えとけよ…。たっぷりボコしてやるからな。そんな決意を胸に秘め、走る私はある場所を発見した。

「……!ちょい、ストップ!」

…この間の倉庫。割と中は広いし…入口には見張りと思われるプラズマ団員…そうだな、貴様はプラ男Cと名付けてやろう。プラ男Cが呑気に欠伸をしている…もしかしたらこの中かもしれん。チラッとゾロアークに視線をやる。イリュージョン、解いてくれる?

了解した、と言いたげに彼は目を瞑る。で、プラ男Cが大慌てしだしてカオルさんワロタ。

「な、なななななんだお前!?」

「ここの職員、だよッ!」

身体をひねり、プラ男Cの顔に渾身の蹴りを一発お見舞いしてやった。背は小さいがな、私の股関節の柔らかさは伊達じゃねぇ…。覚えとけ!ずしゃ、となんとも痛々しい音をたてて床に倒れるプラ男C。…返事がない。気絶したようだ。よしよし、大人しくおねんねしてな。

…ふむ、鍵がかかってるみたいだな。ガチャガチャと音がする扉は開く気配が全くない。…めんどくせ。無言のまま思い切り扉を蹴り飛ばせば、物凄いを音をたてて扉が歪んだ。…あと、一回。ふう、息を吐き出しもう一度蹴り飛ばす。…おぉ、やったぜ。見事、扉を破壊する事に成功した私である。もう人間じゃないよね!ゆっくり倒れる扉を乗り越え、中に足を踏み入れる。おぉ、いたいた。

「おっす、皆さん。カオルさんが助けにきましたよ」

軽く手を上げれば、その場にいた何十人もの人が私に視線を向ける。痛い痛い痛い!視線が痛いから…ただ扉壊しただけやないですか……あ!見知った顔にもう一度手を振れば涙をポロポロ零しながらカズマサが私に飛びついてきた。いだだだ!おま、力強すぎるから!…ま、無事で良かったよ。苦笑する私をぎゅうぎゅう抱き締めるカズマサの背中を叩いてやる。

「カオルちゃぁぁああん!怖かったよぉおおお!!」

「よしよし…。まぁ、職員としてどうかと思うがな」

「そうやで、カズマサ。お前が泣き続けるもんやからお客様が不安がってたやんか」

「おっさん!」

呆れたような声色だが、おっさんは笑みを浮かべている。安心したといったところか。まぁ、あれだ、助けてくれ。私の気持ちを汲み取ってくれたのかベリッとカズマサを剥がしてくれるおっさん。空気読んでくれてさんきゅ。…おやおや、エリ子ご一行様もいたのね。こんな時でさえ私を睨むか…良いけどな…。で、だ…私の探している二人が見つからないんだけど。

「…おっさん、あの二人は?」

途端に顔を歪めるおっさんに、私は嫌な予感がした。どういう事だ、と視線を向ければ苛々した様におっさんが頭をガリガリ掻く。こっちの方が苛々しとるわ!!

「ボスたちは…奴らに連れて行かれたわ…」

「…は?奴らって、プラズマ団?は?なんでや!!」

「それはわしにもわからん…。ボスたちが連れて行かれた後はこん中に閉じこめられたからなぁ…」

おい…。プラズマ団よ…私を怒らせてもな、何も良いことないぜ?むしろあれだからな、殺意が湧いてきたからな。貴様ら…双子に手ぇ出してみろ…。多分、いや確実に私キレるから。良かったな、プラズマ団。…カオルさんが本気でブチ切れるとこ見れるかもしれんよ?…まぁその時に貴様らが生きてるかどうか保証はないけどな。ハッ…!危ない危ない…殺人予告するとこやったわ。え?してるって?気のせい気のせい!

「…急いで探すしかねぇか。じゃあおっさんたちは逃げなよ。彼らは私たちが探す。お客様の安全は任せた」

そろそろ奴らが来るかもしれんからな。あんたらはさっさと脱出しろ。……ん?なんでそんな困った顔してるんだよ…カズマサまで。なんだよ、何があったし。あれ…そういえば腰にモンスターボールが付いてない…。ま、まさか…お前ら。

「わしらな、ポケモン取られてん…。正直、お客様を守りきる自信が無いわ」

はい、予想通りの展開キタコレ。なるほどな…だから大人しく捕まってたわけだ。不思議だったんだよね、ポケモンの力を借りたら逃げ出せそうなのになって。…つまり、今この場にいるのはチラーミィ、ランクルス、ゾロアーク…この三匹しかいないとな。…なら、しょうがない。おい、と三匹に声をかける。

「…ここからは別行動だ。私は双子を探す。お前らは皆の用心棒な!」

ふざけるな!という感じですてみタックルを繰り出すチラーミィ、無表情で私を見つめるランクルス、私と離れたくないと抱きついてくるゾロアーク。見事に個性がね、爆発しちゃってるっていうか…チラーミィよ、お前…本気のやつやん!うっ!ってなったわ!まぁ、この中で怖いのはランクルスですよ。こんのヤンクルスめ!…ぞ、ゾロアークさん?服をまさぐらないでくれる?

「お、お前らが私を心配してくれてるのはわかった!だが…私の強さを誰よりも知ってるのはお前らだろう?」

そう言えば、互いの顔を見合わせて渋々といった感じで頷く三匹に笑いかける。大丈夫だ、私は強い。しかしな、ここにいる人達は弱い。誰かが守らないと危ないんだ。それぞれの頭を撫でてやり、しっかり目を合わせる。

「いいかお前ら、皆を守ってくれ…頼んだぞ。帰ったら高いポケモンフード食わせてやるから」

飛び跳ねて喜ぶのはチラーミィだけだった。うん、まぁそうなると思ったけどな。苦笑する私である。よし、これで人質解放のイベントはクリア出来るはずだ。あとはメインイベント…ノボリさんクダリさんの救出、だな。…カズマサ、そんな悲しそうな顔するなよ〜…。今生の別れじゃないんだからさ。


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