走って、走って…辿り着いたのは今は使われていない古びた倉庫。肩で息をしながら、ずるずるとその場に崩れ落ちる。うるさいからインカムは耳から外しておこう。…ふぅ、…きっついわ。だがまぁ…暫くは一人になれるだろう。…あら?ランクルスまで置いてきちゃった…。すまん、ランクルス…。ちょっと今は…。

「余裕ないわ…」

体育座りのような格好になった私は、そのまま膝に頭を埋める。……なははは、昔を思い出しちゃったじゃねぇか、クソが…。まぁ、大きな独り言だと思ってくれ。……死んだ私の両親の話だ。うちな、親戚いないんだわ。なんでって……駆け落ちしたんだよ、うちの両親。誰にも祝福されず、それでも父の側にいたいと願った母。……私の親なのに、意外とロマンチックだろ。

『母さん、また父さんと散歩?』

『ふふ、久しぶりに公園デートしてくるわね』

『置いていくぞー!…全く、母さんは仕方ないな。ほら、手出して』

『はい、あなた。…そうだ!カオルも行きましょうよ!ゲームしかしないんだからたまには外に出なさい!』

『…しょうがないなぁ。じゃあついて行くよ』

いつも…何処へ行くにも手を繋いでさ、すっげぇ幸せそうだったよ。見てるこっちまで嬉しくなるくらい。前を歩く二人を私はずっと眺めていた。

だけどなぁ…酷いもんだよなぁ…。私同様…交通事故で死ぬなんてさ。しかも原因が私とか…信じられないだろ?あの日、…私に車が突っ込んできたんだわ。人間はそういう時、困ったことに動けないんだよなぁ…。立ち尽くす私を、二人がドンと突き飛ばした。あ、と思う間もなく…二人は車と衝突。私はそのまま気を失い、気が付くと病院のベッドに横になっていた。目覚めた私はすぐに母さん達の元に向かった。

……まぁ、二人は亡くなってた。馬鹿だろ?私なんか庇うから…。呆然とする私は、横たわる二人の亡骸のある部分を見て思わず笑ったわ。だってさ、しょうがねぇじゃん。……死んでもさ、手ぇ繋いでるんだもん。泣きながら笑う私を看護婦さんが不審な目で見てたけど気にしなかった。……うん、まぁ…これで独り言終わりですわ。つまり…あれだな。トラウマ?的な?なははは。

「……畜生、ノボリさんの馬鹿野郎が。人の傷口えぐりやがって…」

しかも下手したらあんたも死んでたんだからな!……あんたまで、私庇って死んだら…。視界が歪み、鼻の奥がツンと痛くなってきた。ギュッと腕に力を入れて、目を瞑る。そんな私の耳に、カツカツと足音が聞こえてきた。…もう見つかったか。泣いてるから、顔は向けないが…ノボリさんだろう。

「カオル様…やっと見つけましたよ。こんな所で……カオル様?」

ノボリさんが、私の目の前に膝を折った気配がした。いや…泣き顔見られたくないんで、私は絶賛顔を隠し中であるからよく分からんがな。…こんなぐしゃぐしゃな顔見られたくねぇわ。暫しの無言の後に、ノボリさんが口を開いた。

「もしかして…泣いていらっしゃるのですか?」

「……っ!」

あろうことかこの男、抱き締めてきましたよ。慌てて顔を上げれば至近距離にノボリさんの悲しそうな顔…。急に顔を上げたからか、涙が頬を伝うのを感じた。その私の涙を唇でそっと拭われても、何故か文句が出てこないではないか。代わりに、涙と…違う言葉が私の口から零れる。

「……あんた達は私が守るから、だから、だから…置いて逝かないで」

ポロポロと溢れる涙は止まる事を知らず、込み上げてくる感情は抑える事が出来ない。嫌だ、もう置いて逝かれるのは嫌だ。そんな私の様子にノボリさんはギュッと抱き締める力を強めた。するりと手を伸ばした私は彼の大きな背中に手を回し、胸元に耳を当てる。とくん、とくんと聞こえる心音…そしてノボリさんの体温が私を安心させる。あたたかい。生きてる。うん、生きてる…。

「わたくしは…わたくし達は、カオル様を一人にさせません…!ずっと、ずっとお傍に居させて下さいまし…」

「……も、もう、あんな事するなよ!?私を、庇って…しぬなんて、ぜったいに、許さない…っ、からな…!」

嗚咽を漏らしながらそう言うとノボリさんが私の背中をあやすように叩いてくれる。その優しさが嬉しくてまた涙が溢れてくるじゃないか。そっと目を瞑れば、眠気が襲ってきた。……疲れたもんな。ちょっと、寝ても良いよね?…起きたら、いつもの私に戻るからさ、甘えさせて。

「…ギュッて、してて下さい」

「…えぇ、カオル様の仰せの通りに」

低くて優しい声がまた眠気を誘う。ありがとう、と呟いて私は意識を手放した。


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