エリ子とパラ子の一件以来、女子共が容赦なく私にポケモンの技を食らわせてくるんだけど。勿論、双子に見つからないようにコソコソとな。あれ?私いじめられてる?そ、そんな馬鹿な…。振り下ろされるダゲキの腕を片手で受け止めながらふとそんな事を考える。呆然とするダゲキをボールに戻して、ミニスカートの女が舌打ちして走り去る姿を遠い目で見詰め、溜め息をついた。お前等なぁ…やり逃げやでやり逃げ。

もうな、本当に酷いわけよ。まだ打撃系は可愛いもんだ。昨日なんかギガインパクト→ドロポン→かみなり→どくどくの謎のコンボ食らったからね。いや〜…あの時のカズマサの悲鳴は半端なかった。私より慌てたからな。心配してくれるのは嬉しかったけど、大量の毒消しと何でもなおしをぶちまけるのは止めて欲しかった。あ、ちなみに毒になることはなかった。ただ身体中が紫色の液体でドロドロしただけだったわ。なははは。…しかしまぁ…。

「疲れるわ〜…」

あぁ、だるいだるい。肩を回しながら歩く私を女子共が睨みつけてくる。陰湿的だなぁ…。全く…苦笑するしかねぇよ。酷く長く感じた一日だったが、まぁ、時間は止まることなく過ぎていくわけで。私への攻撃以外は特に問題もなく、仕事を終えた。

そして、クダリさんと帰宅した私は家政婦の仕事も終わらせて、只今ソファで休んでいる。あ?チラーミィたち?もう寝てるわ。…というか、ギアステから家までの道をもう覚えてしまったのに…なんでまだ一緒に帰ってきてるんだ?習慣化してしまったからか…。もう無意識で執務室に行ってるもんな。…双子の仕事の邪魔してねぇかなぁ。大丈夫かしら…。

「はぁ…。明日も、仕事か…」

充実してるが、如何せん女子共の攻撃がうざったい。いい加減にしてくれないだろうか。…しかし、双子に伝えるのもなぁ…。またクダリさんがブチ切れそうだし。あぁー!めんどくせ!

「…どうしたもんか。はぁ〜…」

重い溜め息をついた。瞬間、顔の両側からにょきっと両手が伸びてきた。あ?と思うまもなく、するりと私の首に巻き付いてくる。…えっと、つまりだ。ソファ越しに抱き締められてしまった…みたいだな。ふむ、こんな事に慣れてきている自分が嫌だな。いやまじで嫌すぎるわ…。

「そんなに溜め息ばっかりしてると、幸せが逃げちゃうよ?」

「…クダリさん、いきなり抱きつくのは止めて下さい」

「二人のときくらい、いいでしょ?…僕、いっぱい我慢してる」

んなもんしらねぇよ。せめて隣に座りなさい隣に。ソファを叩き、そうアピールすれば少し嫌そうにしたがゆっくり離れ、私の隣にクダリさんが腰をおろした。そして何故か頭を撫でられているのだが…。なにをする、と睨めば困ったようにクダリさんが笑う。

「これくらいは、許してほしい、な…。本当は、ぎゅってしたいし、キスもしたい。…それ以上のこともね」

お、おま…!!さらっと恐ろしいことを口にしやがって!多分…いや確実に私すっげぇ嫌な顔してると思うわ、まじで。そんな私に変わらず笑みを浮かべてクダリさんが言葉を紡ぐ。

「でも、カオルのことが大切で、大事にしたい。…守っていきたいから、嫌がることは…極力控える。…と思う」

さっきみたいに無意識に抱きついちゃったらごめんね、と苦笑するクダリさんに…申し訳ない気持ちでいっぱいになった。あんた…なんで私みたいな女をすきになったわけ?…もっと良い女いるぜ?ノボリさんもそうだよ。本当に理解出来ん。私のどこが良いのだ?頭が良い人、誰か教えて。

「ねぇ、カオル」

脳内で「第一回私の長所を探そう会議」を行っていた私にクダリさんが小さく声をかけてきた。なんだよ、と視線を向ければなんともまぁ真剣な表情をしていらっしゃるではありませんか。え、え、…なにがあったし。そんな顔されたら私も真剣な顔をせにゃならんではないか…。…えっと、よし、多分、真剣な表情を作れたはずだ。で、なに?

「何か悩んでるなら、僕が……僕たちが力になるよ?しっかりしてるカオルからしたら頼りないかもしれないけどさ…」

「クダリさん…」

「もっと、僕たちを頼って…?」

そう言ってクダリさんが手を伸ばすが、「あっ…」と声を上げてさっとその手を引いた。な、なんだよ…なに悲しそうに笑ってんだよ。…そうだね、極力控えるって言った瞬間触ろうとしたからな。だからすぐに止めたんですよね。うん、気を遣ってもらって嬉しいけど…さ。…ったく、しょうがないな!!としょんぼりとするクダリさんの手を掴み自分の頬に押し当てる。

まぁ、クダリさんが驚く驚く。パチパチと瞬きする彼に思わず苦笑してしまう。だよね、普段の私はこんな事しないもんな。

「…クダリさんの手、すきなんで……た、たまには触ってもいいですよ?」

自分で言っといてあれだが、めちゃくちゃ恥ずかしいわ…!!つまり、えっと…私はな…クダリさんにいつも笑っていて欲しいんだ。…さっきみたいな悲しそうなものじゃなくてな。…悲しませる原因が私なら、私がどげんかせんといかん、だろ?馬鹿みたいに恥ずかしいこの言葉にクダリさんがふにゃりと嬉しそうに笑い、もう片方の手も私の頬に添えた。両頬をクダリさんの大きな手に包まれてしまったわけで。一気に私の体温が上がるわけで。

「…あはは!カオル、顔真っ赤だよ?」

「うっさい…。自分でもわかりますよ」

「本当にもう、…可愛いんだからなぁ…カオルは。ねぇ、このまま…キスしてもいい?」

「良いわけねぇだろ」

この切り返しの速さは自分でも驚くくらい速かったわ。苦笑する彼が「だよね」と呟きゆっくり手を外した。…助かった。本当にちゅーされるかと思ったぜ。ふぅ、と安堵の息を吐く私の頭をクダリさんがまた優しく撫でる。

「一人で抱え込まないでね。カオルには、僕たちがいるから」

「…ん、さんきゅ」

…あ、あんまり優しくするなよ。うっかり惚れそうになるからな…!…とりあえずクダリさんに心配かけたくないから、やはり女子共の件は言わないでおこう。エリ子たちも飽きるだろ、うん。
まぁ今は、……この手の感触に浸りましょうか。



prev next
back

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -