気がつけばカオル様の事ばかり考えておりました。今何処で何をされているのか、何を考えているのか、…誰を想っているのか。…わたくし、生まれて初めて恋をしました。



クダリにカオル様と帰宅するのを代わってくれと何度も頭を下げられた時は一体何事だと眉をひそめた。詳しくは聞かせてくれませんでしたが、カオル様と話がしたいとのこと。…ならば明日でも良いのでは?言いかけたが普段見せないような必死な表情をするクダリにわたくしは渋々頷く。

互いの制服を交換し、鏡を見ながら口角を上げる。"クダリ"になるのは久し振りです。上手く笑えているでしょうか。ちらりと視線をわたくしとは逆に口角を下げ、表情を硬くする"ノボリ"に向ける。…自分を見ているようで不思議だ。椅子に座り、自分の書類に手を伸ばす。あぁ…今夜はカオル様のホットミルクが飲めると楽しみにしていたのに…。

暫くして静かな執務室にコンコン、とノックの音が響いた。見ればカオル様とわたくしの姿をしたゾロアークが顔を出す。…はて?カオル様の様子がどこかおかしい…。ゾロアークの背後に隠れているが、何度もわたくし…"クダリ"を盗み見ている。ざわりと心が苛立つ。…これは、なんだ?自分の中の黒い感情に戸惑う間に"ノボリ"は帰り支度を済ませたようで、カオル様の隣に立ちわたくしを見る。

「お待たせ致しました。参りましょうか。…ではクダリ、後は頼みました」

「く、クダリさん。お先に失礼しますね」

「…また明日、ね」

「は、はい…」


貴女の隣を歩いていたのはわたくしだったはずなのに。どろりどろりと真っ黒な感情が渦巻いてわたくしの心を侵す。

次の日、出勤してきた二人を見て目を見開いた。昨日の思い悩んでいた顔はどこへやら、楽しげに話し掛けるクダリと素に近い口調でクダリに悪態をつくカオル様。何故、カオル様の頬が赤らんでいるのですか?またわたくしの心が黒くなる。


********


ぐらりと揺れた彼女の身体を支えようと手を伸ばすが、わたくしの手よりも早く見知った白が彼女を抱き留める。むなしく空を切った手を、強く握り締めた。クダリに抱きかかえられたカオル様が力無く笑う。

「…クダリさん、さーせん」

「…辛いでしょ?喋らなくていいから。すぐに医務室に連れて行くね」

「…ん、ありがと…」

わたくし達には滅多に見せない穏やかな笑みでそう言うカオル様に驚いたがそれ以上の衝撃が起きる。嬉しそうに笑うクダリが、カオル様の額に唇を寄せ、口づけたのだ。何かを言いかけた彼女だったが、その瞼はゆっくり閉じられた。おやすみ、と呟くクダリの肩を無意識に掴んでいた。

「なにを、しているのです」

「カオルを医務室に運ぶだけだよ?」

「そうではなくて…!」

声を荒げてハッとした。そうだ、トウコ様とトウヤ様がいらっしゃるのだ。…わたくしとした事が取り乱してしまった。不安げな表情を浮かべるお二人に、失礼致しました、と頭を下げる。その間にカオル様を横向に抱きかかえたクダリは扉へと向かっていく。だが途中で振り返り、意味ありげな笑みを浮かべわたくしを見る。

「カオルね、ノボリの事、男として見れないって。今のところ…僕の方がリードしてる。…僕、ノボリには負けないよ」

言い終わるとクダリはまた正面を向き歩き始めた。立ち尽くすわたくしの頭の中でクダリの言葉が木霊する。男として、見られていない?何故こんなにショックを受けているのか、自分でも分からない。この感情は…一体…。



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