お、お客様の中に桃太郎は…桃太郎はいませんか!?この鬼を倒して欲しいんですけど!…すみません。現実逃避してすみません。だから睨むのは止めて下さい。まじ怖いんで。くどくど続くお説教に立ち尽くす私と居心地悪そうにするトウコとトウヤ。巻き沿いにしてすまんな…。あぁ、もう疲れた。ていうか、なんでこんなに言われなきゃいけないんだ?

「…無傷だから別に良いじゃん」

小さく呟いた私の言葉が聞こえたのかカッと目を見開くノボリさん。怖いからやめてくれ。…だって私無敵なんだもんよ。だからそんなに心配しなくても…ヒィ!ノ、ノボリさんの目が超冷ややか…!乙女…乙女帰ってこい。だがどうやらノボリさんは私ではなく、おっさんを睨んでいるようだった。

「クラウド…。カオル様にこの場所の事を伝えるのはまだ先だと言ったはずです。…一体どういうおつもりで?」

…ちょ、ちょ。ノボリさんまじ怖い。トウコ達も怯えてんじゃん。ノボリさん落ちつけって!どうしよう。なんかこの重たい空気嫌なんだけど。助けて、と視線をランクルスに向けるが眠そうに欠伸をするだけだった。うん、眠いね。もうここで寝ちゃう?寝ちゃう?現実逃避しかけるが私もこの空気を作る要因だったと思い出し、我慢する事にした。冷ややかなノボリさんに対して余裕そうにへらりとおっさんは笑った。

「お嬢ちゃんもバトルする場所を探してたみたいやし、丁度ええと思ったんですわ。なぁ、お嬢ちゃん?」

「おい、いきなり私に話を振るな。…確かにその話を聞いたときは驚いたが…まぁ、私もバトルするの好きだし?なら別に…」

良いんじゃね?と言いかけた時、両肩をノボリさんに掴まれた。そりゃあもう力強く。そして近い。なに?いきなりなに?訝しげにノボリさんを見上げる。…どうした。なんでそんな傷ついた顔してんのさ。

「わたくしは…カオル様が心配で心配で堪らないのです…。自分でも止められないのです…この気持ちは…!」

ちょ、ばか。またなんか暴走しかけてんだろ。やーめーてー。これ以上フラグを立てないで。…いってぇ!また頭痛くなってきやがった…!薬が切れたか…?急に激しい頭痛に襲われ、思わず顔を歪める私にハッと息を呑んでノボリさんが私から距離を取り、頭を下げた。

「も、申し訳ございません…。急に掴んでしまい…痛かったでしょうか…?」

「…いや、大丈夫。ちょっ…頭いてぇ…」

ぐらぐらと揺らぐ視界にこりゃいかんと考えるが、如何せん身体が言うことをきかない。まるで床が激しく揺れているような感覚だ。自力で立ってられない。トウコ達が私を呼ぶ声がした。あ、倒れるわ。まさか床ともちゅーをする事になるとは…。目を瞑り衝撃をまつ。しかし痛みは訪れなかった。代わりに、ぽふ、と温かいものに身体を包まれた。

僅かに目を開ければ、白い…コート。横向きに抱きかかえられた私は力無く苦笑した。

「…クダリさん、さーせん」
「…辛いでしょ?喋らなくていいから。すぐに医務室に連れて行くね」

「…ん、ありがと…」

そう告げれば、ぱちぱち瞬きしたクダリさんがとても嬉しそうな顔をした。そして額に柔らかい感触。…またあんたは…子供がいる前でそういう…。あ、駄目だ。文句の一つでもくれてやろうとしたが、そこで私の意識はぶつりと切れた。

で、目覚めると私は家のベッドの中にいた。何故かベッド脇に突っ伏して眠るノボリさんかクダリさんがいるんですけど。もしかしたらゾロアークかもしれんが。えっと…私どうやって帰ってきた?てか、一体何があったし。


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