話を聞くとノボリさんは怒っていた訳ではなく、どうやら私を心配してくれていたみたいだった。てっきり睨みつけてたのかと思っていた。あぁ、良かった。でも勝手に居なくなったことはきちんと謝った。土下座する勢いでな。物凄い引かれた気がするが気にしない。
「…あの、あれの対処お願いしていいですか?」
「あれ…とは?」
あれはあれだよ。プラ男の事だよ。私が指差す方を見ればノボリさんは納得といった感じで深く頷き、未だに気絶したままだったプラ男を叩き起こした。よ、容赦ないな!怒られなくて本当に良かったぜ…。
「わたくし先に戻ってこの方を引き渡して参ります」
「あ、はい」
「クダリ、カオル様を宜しくお願いしますよ」
「わかってるよー」
なんで私が宜しくされなきゃいけないの?私一人でも大丈夫ですけれども、と思ったけどノボリさんは私達を置いてさっさと立ち去ってしまった。…どうしよう。とりあえず私はあの少女にバンギラスを返さなくては…。ちらっとクダリさんを見ればバチッと視線が合う。み、見られてた…!!ノボリさんと違ってニンマリ笑うクダリさん…何考えてるかさっぱりわからん。
「どうしたの?」
「この子を返しに行きたいんですが…」
「ん、わかった!僕もついて行ってあげる!」
「どうも」
******
あれからクダリさんと二人、地下鉄内を歩いている。少女のいた場所は覚えているから大丈夫だ。歩いている間の無言っぷりが辛いが何を話せば良いか分からないから仕方ない。…もうそろそろかな?バンギラス、やっと少女の元に帰れるぞ、とボールに向かって呟けばカタリとボールが動いた。自然と口角が上がる私の腕をクダリさんが軽く引っ張った。
「…なんでしょう?」
「僕、クダリ。君の名前教えて?」
「…え、あぁ…カオルです」
「カオル、カオル、カオル…。ん!覚えた!」
こくんと頷くクダリさん。あぁ、そういや自分から名乗ってなかった気がするな。しかし私の名前を教えても一向に服を離してくれないクダリさん。なんだなんだ?私何かしました?
「カオルはさ、怖くなかったの?」
「えっと、バンギラスの事ですか?」
「うん」
そりゃあアンタ怖かったに決まってんじゃねぇか、とうっかり言いそうになった。あぶねぇ。どうも私は猫を被るのが苦手なんだよなぁ、自分に素直に生きてるからね。さてさて、なんて答えるべきか…。てか傘持って立ち向かう俺格好良いー!を見られてたというのが恥ずかしいわ!!
「怖くなかったの?」
「いや…まぁ怖かったですけど…。私は生きるためならどんな無茶な事でもやりますよ」
だってもう死にたくないし、この言葉は飲み込んでおいた。こんな事言ったら明らかに不審者じゃん?捕まるじゃん?下手したらプラ男と同じ目に合いそうじゃん?そんなのお断りだ…!!ま、こんな所ですが納得して頂きま……クダリさん?なんでまだ私の服引っ張ってんの?いじめ?いじめ、格好悪い!!
「君がバンギラスに向かっていくのを見たノボリ、気絶しそうだった」
「ま、まじか…あ、いやそうなんですか」
の、ノボリさんんんん!!ご心配おかけしてごめんなさいぃぃぃ!!あとでもう一回、綺麗な土下座をしよう。んでもって、さっさとここから出て行こう。私…一人で生きていくんだ。で、いい加減服を離してください。伸びるんですよ…!!振り解こうと思った時、はたと気付いた。ここ!少女と別れた場所や!!しかし少女の姿が見えない…何処に行ったんだ…?
「少女ー!!私だよー!!」
「…おねぇちゃん?」
「少女!待たせたね!」
少女は物陰に隠れていた様で、ひょっこりと顔を出した。無事で良かった…。クダリさんも流石に空気を読んだのか私を解放してくれた。よっしゃ、と心の中でガッツポーズ。…少女、待たせたね。モンスターボールを少女の手に乗せて、頭を撫でてやる。嬉しそうに笑う少女を見ていると私は笑顔になるわ。
「はいよ。ちょっと…バンギラスをボコッたけど許してね」
「ううん!!おねぇちゃん、本当にありがとう!」
「どう致しまして!あ、クダリさん。この子を安全なとこに連れて行ってくれますか?」
「わかった!」
またバンギラス取られるかもだしな。クダリさんはインカムを使い、他の駅員さんを呼んでくれたみたいで、すぐに来てくれた。プラズマ団と戦闘があったらしく、駅員さんの制服はボロボロだった。怪我は無いみたいだったので良かった。…さて少女ともお別れだ。
「じゃあな、少女。もうバンギラスを離すんじゃないよ?」
「うん!おねぇちゃん、またね!」
「…おう!」
駅員さんに連れられて去っていく少女は何度も何度も振り返って大きく手を振ってくれた。可愛いなぁ…。またがあるかはわからんが…会えたら良いね。軽く手を振り返してると真横からめっちゃくちゃ視線を感じるが、スルーしとこ。スルースキルはとっても大切。皆も覚えておこうね。
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