今日も一日平和だった。つまり私は暇だったのです、はい。…よし、なればバトルの準備ですよ。薬を口に含みコクンと水で流し込んだ。えぇ、お察しの通りクダリさんに飲ませたやつですよ。一応持ち歩いていたんだ。ちょっと乙女っぽいだろ?鞄に入れてたの忘れてたけどな!…ふむ、なんとなく頭痛が治まってきた気がする。病は気から。これで大丈夫だろ。さて、行くか、と歩き出して私は気付いた。
「バトルってどこでやればいいんだ…?」
ランクルスを見るが知らねぇ、って顔された。なにそれ冷たい。…おぉ、場所がないじゃないか。流石にその辺でバトったら他のお客様の邪魔になるよな。むむ……あ、そうだ。ノボリさん達に聞いてみよう。サブウェイマスターなんだから、良いとこ知ってんだろ。あ、最近になって二人の役職を思い出したんだぜ。訳したら地下鉄の名人。な、なんか怖い…!!
地下鉄の名人…違った。サブウェイマスターである二人の執務室に着いた私はコンコンと軽くノックする。中からどうぞ、とノボリさんと思しき声がして失礼します、とドアを開ける。クダリさんは丁度いなくて内心ガッツポーズをする私。執務室にはコートを脱いで書類に目を通すノボリさんが椅子に座っていた。ノボリさんは私を見ると、すぐに視線を書類に戻す。…あれ?なんか冷たい気がするんだけど、ま、いっか。
「今からバトルするんですが場所がないんですよ。良いとこ知りません?」
「入ってきて早々何を仰っているんですか?わたくし話についていけません」
「いや〜…かくかくしかじかでして」
説明を口にするのも面倒なのでこれで済ませてもらいますわ。なんて便利な言葉なんでしょうかね〜。かくかくしかじか。よし決めた。今後も使っていこう。そんな適当な私の説明に口元に手をやり考える仕草をしていたノボリさんが口を開こうとした時だった。執務室の扉が開き、おっさんとクダリさんが現れた。私を発見するや否や満面の笑みを浮かべたクダリさんが抱き付いてきた。痛い痛い痛い。
「カオルー!もしかして仕事が終わってすぐに僕に会いにきてくれたの!?わぁ!僕、すっごく嬉しいよ!」
「違うわばかたれ。痛いから離しやがれ。このばかたれ」
お、おっさんんんんん!!!にやにやしてんじゃねぇぞゴラァ!あ、ランクルスが無表情。クダリさん終わったな。ピシッと音がしてランクルスの金縛りが見事決まった。フゥーフゥー!今日も輝いてますね、ヤンクルスさん!イタタタ!とうるさいクダリさんは置いておこう。ふははは、暫く反省するが良いわ。
「……随分仲が宜しいのですね」
「…ん?なんか言いました?」
「いえ…」
ノボリさんがなんか言った気がしたけど気のせいか?なんかフラグ的なものが立った気がしたんだが…気のせいだな。気のせいであってくれ。せっかくなので二人にも聞いてみようと、かくかくしかじかと説明したところ、なんとおっさんが良い笑顔で親指を立てたではないか。おい、まさかのおっさんかよ。
「丁度ええ場所があるで!案内したるわ!」
「よし、久々に本気で戦ってやるぜ」
パキパキと指を鳴らし、いざ行かん、とおっさんについていこうとしたのだがノボリさんに腕を掴まれて阻止されてしまった。え?なに?どないした…ヒィ!!への字口の鬼がいます!誰か、誰か退治して下さい!私山に連れて行かれる!久し振りに見た荒ぶるノボリさんに固まる私である。
「まさかとは思いますが…カオル様ご自身が戦うおつもりではないでしょうね?」
「…え、あ。本気だと危ないって?わかりました、優しくボコしますね」
「わたくしが言いたいのはそういう事ではございません!!仕事以外で何故貴女が戦う必要があるのかと言っているのです!確かにカオル様はお強い…人間離れした強さをお持ちです。しかし、貴女は仮にも女性ではありませんか!身体に傷でも出来たらどうするおつもりですか!?わたくしは許しませんよ!」
へ…?一気にまくし立てて疲れたのか、肩で息をするノボリさんを間抜け面で見上げる。の、ノボリさんに心配されてる…。途中でお前人間じゃねぇぞ、って言われたけどな。しかも女性がどうたらこうたらって…ちょっと紳士っぽくなってる!え?ノボリさん、乙女から紳士へと進化しようとしてるの?まじで?
えーっと、とりあえずどうしたら良いんだ?見事におっさんも固まるし、クダリさんに至っては笑顔のまま硬直しているではないか。
「ノボリさん…大丈夫です。私頑丈ですから。それに約束しちゃったんで……行ってきますわ!っしゃあ、走るぞおっさん!ランクルス、ちょっと足止めしてくれ!」
「お?おぉ!」
「あ!カオル様、お待ちなさい!イタタタ!痛いです!」
「な、なんで僕まで…!?いたいよー!」
素早くノボリさんの手から抜け出した私は執務室を飛び出した。横を走るおっさんがにやにやしながらモテモテやなぁ、と訳のわからない事を口にした。なにそれ。その言い方はまるでノボリさんまでもが私の事…。いや違います。私はそんなフラグは立てていません。ふざけた事言うなよおっさん。
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