カオルが僕の髪を梳いてくれる心地よさで目を閉じていた。なんだか凄く安心する。本当は櫛じゃなくてカオルの指で梳いて欲しかったけどね。…どうやら終わったみたいだ。ベッドの脇に座り直したカオルが僕を睨み付ける。

「で、なんで雨の中あんなとこにいたんすか?…まさか寝ぼけてたとかじゃないっすよね」

「……」

「チッ……また無視か」

なんと説明しようかと黙って思案する僕にイライラしたのだろう。目の前で舌打ちするカオルに心が折れそうになったけど僕はなんとか耐えた。…どうしよう。僕、説明するの苦手。その時溜め息を吐いたカオルが立ち上がろうとした。思わず服の裾を強く引く。だって…居なくなっちゃうと思ったんだもん。でも流石に怒られると覚悟した。

「…どーしたんすか?」

カオルの口から紡ぎ出された言葉は、少し乱暴だったけど、優しさが込められていた。もう、限界。その小さな身体に思い切り抱き付いて、肩口に顔を埋めればピクンと身体を揺らすカオル。突き飛ばされるかと思いきや、おずおずと僕の頭を撫でてくれる。僕、今泣きそう。

「…帰ったかと思った」

「え?」

「カオルが、元の時代に帰ったかと思った…!」

それ以上喋ると涙が出そうな気がして、ギュッと抱き締める力を強めた。僕の頭を撫で続けながら、カオルが溜め息を一つ零す。

「私が帰る場所は此処しか無いっすよ」

当たり前の事のように言い放ったその言葉に堪えていた涙は溢れ出し、すがりつく様に僕は声を泣いた。その間ずっとカオルは優しく何度も何度も頭を撫でてくれていた。



泣いてスッキリしていつもの調子を取り戻した僕はカオルを驚かしてやろうと、イタズラを仕掛けた。多分熱のせいで正常な判断が出来てなかったと思いたい。…いや普段の僕もやるかもしれないね。
僕の考えたイタズラはこうだ。病人であるということを生かし、苦しんでいる演技をしてみよう。きっとカオルは青い顔して慌てるはず!近付いてくる足音ににんまりと笑い僕は作戦を実行した。

予想通りカオルは見事に大慌て!どうしようどうしよう、と部屋の中をぐるぐる回る姿に笑いそうになったけど頑張って苦しそうな顔をしてた。僕、もしかしたら役者の素質があるかも!…そろそろ止めて上げようかな?と思った時だ。カオルが「あー!」と声を上げた。も、もしかしてバレたかな?

「そうだよ!薬があるじゃん!…って、この状況でどうやって飲んでもらうんだよぉぉおおお!!」

…どうやら違ったみたいだ。床に手をついて叫ぶカオルにまた吹き出しそうになった。面白いから…もう少し様子をみてよう!目を瞑り、カオルはどうするのかとワクワクしていた。まさかカオルが口移しで薬を飲ましてくるなんて思わずに。割れた唇の間から水と共に薬が流れてきて、びっくり。

…そんな事するような子じゃないでしょ?…でも口移ししてでも、僕を助けたいと思ってくれたんだと思うと…なんだか嬉しかった。びっくりした僕は、ちょっとだけ舌を絡めてしまった。…えへへ、すっごくドキドキした!カオルは色気の欠片もない声を出してたけどね。

「私のファーストキスが…。いや、違うよ。これは医療行為です…なのでカウント致しません…」

この言葉に僕の心臓はドクンと跳ねた。…初めてだったんだ。きっと恥ずかしがったんだろう。カオルは急いで部屋を飛び出していった。静かになったのを確認して、僕は唇に触れた。女の子にとって、ファーストキスはすっごく大事なものだと聞いた事がある。それを…。カオル、ごめんね。でも僕、素直に嬉しいって思ってる。…最低でごめんね。こんな形で自分の気持ちに気づくなんて…。

「僕、カオルがすきなんだ」




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