あの日の事、僕は絶対に忘れない。カオルへの気持ちに気づけた大切な日だから。そっと自分の唇に触れてみると、柔らかかった彼女の唇が恋しくなった。




喉の渇きで僕は目覚めた。カオルが用意してくれていたスポーツドリンクを半分程一気に飲み干した。温いけどとっても美味しくて、どんどん身体に染み込んでいくみたいだった。そして僕は気づいた。…あれ?カオルがいない?驚くほど静まり返った家に、凄く嫌な予感がして立ち上がる。
ふらふらして、壁に手をつきながらでないと歩けない自分に舌打ちした。苦戦しながらもリビングに辿り着いた僕は、不機嫌そうなカオルのチラーミィとダブランに声をかけた。

「…ねぇ、カオルはどこいったの?」

僕の問いに二匹は答える訳もなく、強く睨まれてしまう。その視線に僕はより不安になった。"お前のせいで居なくなったんだ"って言われている気がしたから。もしかして、元の時代に…帰った…?
彼女が居なくなった世界を想像した僕の背中に寒気に似た何かが走った。そんなの、僕は嫌だよ!

上着も羽織らず、裸足のまま衝動的に家を飛び出した。土砂降りの雨の中を傘も持たずパジャマ姿でうろつく僕を皆不審そうな目で見てくる。その時やっと僕の今の状態が異常なんだと理解した。通報される前にマンションへと急いで戻っては来たが、カオルは居ない。どうしよう、僕のせいでカオルが帰っちゃった…。立ち尽くす僕の腕を誰かが掴んだ。とうとう通報された?視線を向ければ、大量の荷物を持ったカオルがいた。

「クダリさん!!馬鹿かあんた!!なにしてんだよ!!」

グイッと引っ張られてエレベーターに連れ込まれた。早く動けこのクソ野郎!と口汚く文句を言うカオルはいつもより余裕が無さそうだ。きっと、僕の心配をしてくれているのだと思う。彼女は優しいから。睨んでくるし、言葉が汚い時もあるしそれで傷付いた事もあった。けど、やっぱりカオルが居ない世界なんて、もう僕には考えられない。耐えられない。

「よかった…」

「…なにがじゃい。って……く、クダリさん!?」

カオルとまた会えて本当によかった。後ろから抱き締めれば、強張る小さな身体。いつもいつも、ごめんね。本当は守ってあげたいのに…どうして僕は守られてばかりなんだろうね?




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