〜ノボリside〜

久し振りに家に帰ることが出来る。普段なら何も思わないところですが、今は違う。わたくし達の家には家政婦…もといカオル様がいらっしゃいます。彼女はとても凄い方でございます。あれだけの大量のゴミをあんな短時間で片付ける事が出来るとは…!それだけでなくとも、わたくしは…彼女を尊敬しております。

…帰る準備をするとしましょうか。…はて?なにやら視線を感じる。…予想はついています。この執務室にはわたくしと、クダリしかおりませんので。彼の机の方を見ると、大量の書類に囲まれて嫌そうに顔を歪めるクダリが恨めしそうな目でわたくしを見ておりました。

「クダリ、後は頼みましたよ」

「ノボリ狡い!僕も帰りたい!」

「自分のせいでしょう…。早く帰りたいならその書類を片づけることですね」

「うぅ…僕もカオルのご飯が食べたい…」

そのまま机に突っ伏したクダリに苦笑して、頑張って下さいまし、とその場を後にしました。本気を出せば明日には終わるでしょう。そしてはたと気付きました。今夜はカオル様と二人きりだという事に。



*******



別に気にすることはありません。わたくしが彼女に対して持っているのは"尊敬と感謝"、この二つの感情だけ。それに彼女もそんな感じでしょう。だから変に意識する事はないのです。カードキーで玄関を開ければ中は真っ暗。不思議に思いながらもリビングへ進み、手探りに電気のスイッチを探す。

カチリ、と音がして蛍光灯の光がリビングに広がり照らし出された光景に思わず目が丸くなり、そしてトクン、と胸が小さく鼓動した。音を立てないようソファへと近付き、静かに腰をおろした。

「…寝てらっしゃるのですか?」

返事は帰ってこない。変わりにスースーと寝息が響く。未だにわたくしが差し上げたシャツを使って頂いている事に少々驚きました。やはり彼女にそれは大きすぎた様で袖捲りをしていらっしゃる。…カオル様は本当に小さいのですね。ぼんやりそんな事を考えていたわたくしは無意識の内に彼女の頭に手を置いていました。サラサラと落ちる髪が指に心地良い…。

ハッ!!わ、わたくし…一体何を…!!
自分の無意識な行動、思考に慌てるわたくしの物音に気付かれたのかカオル様がゆっくりと目を開けられた。思わず身体がびくっと震えましたが、寝起きのカオル様の焦点は定まっておらずまた眠ってしまわれるかと思いました。

「…カオル様?」

「おかえり」

「…っ…!!」

こ、言葉になりません…!!いつも恐ろしい睨みをしてくるカオル様が…ふわりと微笑みかけて下さいました…。その微笑みはいつもわたくし達に向けられるものとは違う…ハッキリとわかりました。

…顔が、熱い。

戸惑うわたくしを置き去りにして、彼女はパタリとまた眠ってしまわれた。未だに心臓はどくん、どくんと脈打ち、…先ほどの微笑みが静止画の様にわたくしの頭の中をぐるぐる駆け巡る。"尊敬と感謝"、彼女に抱いていた感情…。しかしそれだけで、わたくしがこんなに心を乱されるはずが…。

そこまで考えて、考えるのを止めた。もし、それ以上考えてしまったら…わたくしは大変な過ちを犯す気がするのでございます。ふぅ、と息を吐き出して心を落ち着かせ、視線をカオル様に向ける。

幸せそうなその寝顔に触れたくなった。




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