ジリジリと近付いてくる女性陣に圧倒され、嫌な汗が吹き出てくる。なんだよ…じゃあ君たちの服くれよな!はぁぁ…私は…一日に何回死亡フラグを立てているんだ…?あれ?もしかして私、何かしらの主人公ポジションにいたりするの?いやいや勘弁勘弁!平々凡々に生きていきたいよ!
「…ハァ、めんどくせ…」
「何が、めんどくせ、なんです?」
「の、ノボリさん!」
不思議そうに首を傾げるノボリさん。彼の登場により、ついさっきまで殺気立っていた彼女達がキャーキャーと黄色い声を上げ出す。恐らく、今は私の事が見えていないはずだ。救世主…彼はまごうことなき救世主である。ノボリさん、まじでありがとう…。もうジュンサーさんとの話は終わったのかな?…ん?ノボリさんが何か黒い布チックな物を持っている。なんだこりゃ。
「それ、何ですか?」
「あぁ…これはカオル様に差し上げます。先程の戦いでお召し物が破れたと仰っていましたので」
「まじか…ありがとうございます」
ノボリさん、貴方はこれからメシアノボリって名乗れば良いと思うよ。イェーイ!やっとこの地獄から脱出出来るぜー!とノボリさんから丁寧に服を頂き、バサッと広げて見るとカオルさんびっくりー。めちゃくちゃデカい黒のシャツ。え?え?え?余りにも凝視していたからか、ノボリさんが一つ、咳払いをした。
「…サイズは多分合わないと思いますが、それよりはマシでしょう?」
「え、あ、そっすね…。いや、でも…これって、まさか…」
「はい、わたくしの私物でございます」
え〜…どうやら、彼はとんでもない爆弾を投下したようです。今までに感じたことのない強力な殺気が私に向けられている。折ったのに…死亡フラグ折ったのに!!さっきよりも強力な死亡フラグ立ったったーあっはっはっ。そんな現実逃避をする私にトドメを刺すようにクダリさんが白いシャツを手に持って走ってきた。いや…まさか…まさかねぇ?
「これ、僕のだけど良いよね!」
「お…」
お前ぇぇぇぇ!!現実では叫べないので代わりに心の中で叫ぶ。よく口に出さなかった。ちょっと出かけたけど、私偉い。ビシビシと突き刺さる視線と殺気。もう駄目だ、私耐えられませんよ。黒いシャツで前を隠し、急いでクダリさんの制服を脱いで走る。私、今時間無いんだ。生きるか殺されるかの瀬戸際に立ってるんだ!!
「クダリさん!貸してくれてありがとうございました!服はお先にノボリさんに頂いたので結構です!」
「えー!?なんでノボリのにするのさ!僕のにしなよー!」
何故ここで駄々をこねておるのだぁぁぁ!!うわぁぁぁ!!もう死にたくないんだよ!とクダリさんの持つシャツを奪い取り、制服を押し付ける。ちょっと乱暴ですまんが、時間が無いんだ。クダリさんを見ればキョトンとした顔で私を見ていた。…あんた無邪気で可愛いな!
「えぇ…では私、これにて失礼させて頂きます。なんとかマスターのお二人には多大なるご迷惑をお掛けしてどうも、すみませんでしたぁぁ!!ってなわけで、サヨナラ!」
「え?あ、ちょっと、カオル!!」
「カオル様!お待ち下さいまし!」
お待ち致しません!本日最後になるであろう本気ダッシュでサブウェイ入口まで一気に走り抜ける。後ろから何度も名前を叫ばれてるが、きっと彼等の事は女子共が止めてくれてるはず。じゃあ…もう一度だけ。走る足を止めて、くるりと振り向けば予想通り女子に囲まれた二人の姿に苦笑を浮かべた。あ、目があった。なれば…、大きく息を吸い、声を思い切り張り上げる。
「ノボリさん!クダリさん!服サンクスー!!私、めちゃくちゃ頑張ったからこれはタダで貰って良いっすかー!?」
しまった。こんな事を言うはずでは…。少し恥ずかしくなってすぐにその場を立ち去ろうとした私の背中に声がかかってきて、思わず振り向いた。
「良いに決まってるでしょー!カオルのお陰でバトルサブウェイは無事だったんだからー!」
「そうでございます!むしろそれだけでは足りな…!」
あ、埋もれた。二人は女子の群の中に消えて行った。なのでノボリさんが何を言おうとしてたのかも分からない。まぁ…もう会うことはないでしょうが…だって私、ポケモン持ってないし…。ふるふると頭を振って、もう一度走り出す。自動ドアを抜ければネオンの光が眩しい、ライモンシティ!って、もう夜かい!!…野宿か…。
「そりゃ…仕方ないな。とりあえず、どっかで着替えよー!」
そんで求人誌を探して、働こう。さぁて、やっと私の新しい人生の始まりだ!明日も明後日も明明後日も頑張って生き抜くぞ!
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