〜ノボリside〜
「ノボリ、カオル、いた?」
「……えぇ、今眠っておりますよ」
クダリは視線をわたくしの腕の中で寝息を立てるカオル様にやった。きっと泣いていたからでしょう…カオル様の目元は、赤くなっておりました。しかし、その寝顔はとても穏やかなもので、わたくしは安心した。起こさないよう、横向きに抱きかかえゆっくり立ち上がる。心配そうにカオル様を見つめるクダリが口を開く。
「あの子たちがカオルを泣かせたの?」
…我が弟ながら、なんて冷たい目をするのでしょうか。クダリの瞳は暗い怒りに染まっていて、思わず苦笑してしまう。自分もきっと…彼女に何かあればこんな表情をしてしまうのだろう。…双子、ですね。クダリの言葉に首を振り、事の経緯を簡単に説明した。わたくしの話にクダリは大変驚いた様子。
「カオルが…そんな事を…」
頷いて、また我々は無言で歩き出す。……確かに、カオル様のランクルスが居なければわたくしは大怪我をしていた事でしょう。しかしわたくしは……ただ指をくわえて見ている事は出来なかった。
カオル様がお強いと分かっていても、やはり見ていられません。……結果、それが彼女を傷つけてしまったけれど。ふぅ、と息を吐いたわたくしに、「ねぇ、ノボリ」とクダリが声をかけてきた。
「なんですか、クダリ」
「僕たち、カオルに愛されてるんだね」
いつもと違う、嬉しそうな笑顔を浮かべたクダリに釣られ、口角が上がるのが分かった。誰よりも強く優しい…そして脆いカオル様に視線を向けて、深く頷く。あんなに涙を流して、切願する程に…わたくしたちを想って下さるとは…。
「……カオル様の涙は綺麗ですが、出来ればもう泣かせたくありません」
「僕だってそうだよ!カオルが泣かないように、僕、がんばる」
「おや…。わたくしだって負けませんよ」
わたくしは…身体を張って守れる程強くはありません…。なのでせめて…大切で愛しいカオル様の笑顔だけでも、守らせて下さいまし。
「……っ!か、身体が…動きません…!」
「ぼ、僕も…!あ、…ランクルスだ…」
「……ランクルス、わたくしたちに金縛りをするのはお止めなさい…!」
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