「…あの、ノボリさん」
「…え?あ、トウコ様…何でしょうか?」
「違ったらごめんなさい…。ノボリさんは…カオルさんが好きなんですか?」
カオル様が、好き?トウコ様の言葉に全身に熱が駆け巡り、やっと自分の気持ちに気づいた。わたくしは…カオル様が好きなのだと。顔に熱が一気に集まるのがわかる。そうみたいです、と小さく呟けばトウコ様は目をキラキラ輝かせトウヤ様の肩を叩いていらっしゃる。あぁ、女性は恋の話が好きな方が多いですからね。
「…あー、ボス。ちょっと言いにくいんやけど」
今まで一言も話さなかったクラウドが苦笑しながらあるものを指差す。それを見てわたくしは固まった。天井にぶら下がった黒いカメラには赤いランプが点いており、今なお撮影しているのだと主張している。ま、まさか…。
「今、ギアステの大画面に映ってますわ」
すんません、と全く気持ちの籠もっていない言葉を吐いた後にお嬢ちゃんも大変やなぁ、とクラウドが小さく零す。先程まで熱かった顔が一気に青ざめた気がした。大勢のお客様、部下の前で…カオル様が好きだと告白してしまった。わ、わたくし…!
「恥ずかしくてたまりませんー!!!」
「の、ノボリさーん!」
駆け出したわたくしをトウヤ様が大声で呼びますが、止まりません…!こ、このような恥ずかしい思いをしたのは初めてです!お、お客様の視線が痛い…!走って走って…気がつけば医務室の前にわたくしは立っていた。…こんな時でもカオル様を求めているのか、わたくしは…。静かに医務室の扉を開けた。
医務室にはベッドで眠るカオル様と心配そうな顔をするランクルスだけだった。…クダリも一緒かと思いましたが。きっとすぐに戻ってくるでしょう。ベッドの脇にある椅子に座る。ランクルスに睨まれてしまいましたが気にしない事にしましょう。
寝息を立てて眠る彼女の顔色が少し悪いように見えました。特警の仕事、家政婦の仕事…なによりポケモンとのバトル。彼女がいくら強かろうがわたくし達と同じ人間なのです。…無理をさせてしまった。…そうだ。カオル様を早退させましょう。やはり医務室より、家の方がゆっくり休めるはず!
「ランクルス、帰りましょう。カオル様の荷物を持ってきて下さいまし」
そう告げると理解したのだろうランクルスは頷き、ふわふわと医務室を出ていった。…わたくしも準備を致しましょう。 …クダリが戻ってくる前に。
オノノクスに荷物を運んでもらい、わたくしは眠るカオル様を横向きに抱え歩く。行き交う人々が訝しげな視線を向けてくるが、わたくしは足を止めない。早く彼女を家まで連れて帰らなければ!
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「カオル様がわたくしを異性として見て頂くため…く、口づけをしてしまったことは本当に申し訳ないと思います。ですがわたくし、貴女の事を本当に……おや?」
眠ってしまったのですね。もう少しわたくしの想いの丈をお伝えしたかったのですが、仕方ありません。今のカオル様に必要なのは休息なのですから。…彼女の唇にどうしても視線がいってしまう。柔らかい唇にソッと触れてみる。起きないでしょうか…。彼女の顔の横に手をつき、覆い被さるように覗き込む。…いつも貴女は無防備ですね。
「申し訳ございません…。もう一度だけ、させて下さいまし…」
囁いてからカオル様の唇に、己の唇を重ねる。深いものではなく、触れるだけの口づけ。それだけでも頭はくらくら致します。…早く、貴女に振り向いてもらいたい。
「…わたくし、本気で参りますから」
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