私は眠い。そりゃもうとてつもなく眠い。理由ですか?お菓子を作ってたんだよ。アホみたいに気合いが入って大量にな。…さて、何故私がこんな事を朝っぱらから行っているか。…うちの甘党野郎がですね、一週間も前からなにやらソワソワしてたんですよ…。

最初はトイレでも我慢してんのか?とか思ったけど、どうやら違ったみたいでな。んで、一体どうしたんだと観察していると、彼はカレンダーをガン見してたんだわ。そして気付く私。もうすぐハロウィンだってな。

トリックオアトリートですよ。子供が菓子を寄越せと家々を回るあれですよ。あぁ、ハロウィンね、と流そうとしたが、彼…ノボリさんはめちゃくちゃ楽しみにしてるみたいでさ。ばっちり仕事休みにしちゃってんのよ。

…じゃあ、作ってあげるしかないじゃん。てなわけで、私はハロウィン当日の朝からお菓子を作っていたのだ。故に眠い…。しかしノボリさんまだ部屋から出てこないんだけど。早く来ないと私寝るぜ、確実に。


「あふ…ねみぃ…」


欠伸をかみ殺し、出てきた涙を拭う。…あ?なんか…黄色いものが?リビングと廊下を繋ぐ扉のガラスに何か大きくて黄色いものが映っている。曇りガラスな為何なのか分からないが、それは左右に揺れている。…なんやあれ。首を傾げながら扉にゆっくり近づき、カチャリとドアノブを捻った。


「……」

「……」


えっと、…あの。えぇぇぇぇ!?ちょ、まっ……はぁ!?…私とんでもないものを見ちゃったよ。ピカチュウの仮装したノボリさん(笑)いや笑えなかったわ。正直ビビったわ。なんで長身のイケメンがピカチュウの仮装してんの?ちゃんとフードまで被ってんの?つかそれパジャマ用じゃないの?リアクションに困るというか現在進行形で困ってます。誰か助けて。固まる私を見て、耳を赤くしたへの字口のノボリさん。


「…と、トリックオアトリート…でございます」

「…そうでございますか」


ギャップ有りすぎだろ。もう私のキャパはいっぱいいっぱいよ!なんだよ、ピカチュウでトリックオアトリートでございますって。吹き出すわ全く。ほいよ、好きなの食えよ、とテーブルに並ぶお菓子の山を見せればノボリさんはぱちぱちと瞬きをした。そして勢い良く私の方を見た。


「ぜ、全部…手作りなのでしょうか?」

「いえす。早起きして作らせてもらいましたわ」

ご飯もお菓子も比較的何でも作れるんですよ。まだ味見してないから不味いかもしれんがな。ふわぁ、と欠伸をする私の手をノボリさんがソッと両手で握ってきた。菓子食わんのかいとはてなマークを浮かべるが、ノボリさんは何時にも増して耳と頬を赤く染めて私を見詰めている。お、乙女になっとる…!

「いつも冷たい貴女が…わたくしの為に、早起きをしてまで沢山のお菓子を作って下さったのですね?」

「え?あ…はい。そっすね」


あんなにワクワクされてたら、用意するしかないからな。そんなの当然ですと答えれば今まで見たこともないようなとろけるような笑顔を見せたノボリさんが、低く通る声で囁く。


「…自惚れても、宜しいですか?」


その言葉の意味を理解して今度は私が顔を真っ赤にする事になったのだった。いや、そんな…事…ピカチュウで言われても…!!


お菓子も、貴女も、わたくしのもの







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