憑いてますよ | ナノ




どうしよう。ぼく、今とっても困ってる。えっと、立てない。腰が抜けるってこんな感じなんだね。ぼく、初体験!未だに座り続けるぼくの目の前に立ったミコトが目線を合わせるようにしゃがんだ。思わずビクッと身体が震える。彼女の身体が透けていたから。うっすらと向こうの景色が見えるくらいに。それは普通の女の子ではないのだという事実。きみも…幽霊、なんだよね。ぼくの恐怖を和らげようとしてくれているのか、ミコトがにっこりと笑った。

「…あなたのお名前聞いても良いですか?」

「…クダリ」

「ありがとう。私はミコト。十年位前にこの学校で死んでしまった者です。宜しくお願いします」

よ、宜しくしたくないよ!自分から怖い目に合いにいくようなことするわけないじゃないか。そんなぼくの考えに気づいているのか、ミコトが苦笑を浮かべる。…ぼく、怖いのは嫌い。本当はすぐにだってここから逃げ出したいもの!早く動けるようにならないかな…。俯くぼくに彼女が、凄く言い辛いんだけど、と言葉を紡ぐ。

「あなたの…えっと、守護霊を、ね?…祓ってしまったんです…よ」

「……え?」

ぼくの、守護霊を、

「祓った…?え!?ま、まさかさっきの声の…!?」

「声…?私には聞こえませんでしたが…恐らく…」

そんな……守ってくれる人がいなくなったぼくは、どうなるの?もしかして、またさっきみたいな恐ろしいモノに襲われるの?そ、そんなの、絶対に嫌だよ!!今までだって充分怖い思いや嫌な思い、沢山してきた!なのに…それ以上のことが起きたら…。無理!堪えられない…!

「…どうしたらいいの…」

「クダリ…。本当に、ごめんなさい…」

謝られても、ぼくの守護霊は帰ってこない。あぁ、なんて不運すぎるんだろう。ノボリ…ぼく早死にするかもしれない。両親はなんとも思わないと思うけど…ノボリはきっと悲しむ。どうしよう…どうしよう…!項垂れるぼくに、妙に明るい声を上げるクラウドを思わず睨む。

「坊、祓ってしもたんはしゃあない。せやからミコト、坊のことはお前が守りや」

「え?」

「勿論そのつもりです」

「えぇ!?」

な、なに勝手に話を進めてるの!?カズマサに至っては、ミコトちゃん強いから安心して下さい!とぼくに言ってくるし……え?もう決まってるの?ミコトがぼくの守護霊(仮)になるって決まってるの!?ちょ、ちょっとまってよ!……あ。何気に理科室の時計の針が六を指していた。ろ、六ぅぅぅぅ!?

「た、大変!!早く帰らないと先生に怒られちゃう!」

「最終下校時刻は十八時三十分でしたね。さ、行きましょう」

「うひゃ!!」

ゆ、幽霊なのに!触られた!!腕を掴み立たせるミコトにぼくは変な悲鳴を上げてしまった。そんなぼくを気にすることなく彼女はぐいぐい引っ張る。まって、まってよ!ちゃんと歩くから引っ張らないでぇぇぇえ!


(ミコト!自分で歩くから大丈夫!)
(おや、そうですか?)
(ミコトちゃん頑張ってねー!!)
(…さて、坊はこれからどうなるんやろな)




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