嘘つきは嘘をつけない | ナノ



「ねぇ、今日が何の日だか知ってる?」
僕が唐突にそう問えば、彼は怪訝そうに眉を寄せた。

愚かだと、自分でも思う。
けれど僕は自分の欲望に忠実に、ただ自分の欲を満たすために言葉を吐いただけだった。

「何の話だ」
「エイプリルフールだよ、知らないの?」
そうやって僕が少し、ほんの少し彼を小馬鹿にしたような態度を見せると、ジャックは決まってその綺麗な顔を歪めてくれる。
多くの女性を魅力してしまうその顔が僕の言動一つで簡単に歪む瞬間。
僕はそれがすきだった。悪趣味だと言われようと、それがすきだった。
いや、別にそれだけじゃないんだけど。彼に関することならなんでも、なんだってすきなんだけど。
それを口にしたところで何がどうなる訳でもないことを知ってるから何も言わない。
現に今まで何度も彼に「すきだ」と宣ってきたけれど、それに返事が返ってきたことは一度だってなかった。

「生憎、知っていたところで興味がないな」
「・・・つまんない奴」
嘘だよ、そう言うと思ってた。例の如くジャックのやっぱり綺麗な手が拳になって飛んできそうになったから、僕は慌ててそう言ってやった。

いつだって彼に殴られたところで正直そこまで強い痛みは感じないし、むしろジャックからもらえるものなら痛みだっていいだとか少し危ない気がしなくもない思考にまで陥っていたりするのだけれど、僕を殴る彼の手は痛いと思うから。

「そう言うお前はエイプリルフールが何だか知ってるのか。記憶もろくにないくせに」
珍しくジャックが僕の話にまともに乗ってきた。うれしい。
「知ってるよ。嘘をついてもいい日でしょ?」
遊星が教えてくれたんだ。そう言って僕がへらりと笑えば、彼はフンと鼻で笑う。
ああ、笑った、笑ってくれた。うれしい。嬉しさのあまり頬が緩むのが分かる。知ってる。僕は単純だ。それもとびきりの。

だけど、だけどね。僕が今本当に欲しいのはそれじゃなくて、そんなのじゃなくて。
“嘘”という言い訳に包まれたソレでいいから。


「だからさ、僕にすきって言ってみてよ」


そんな、甘い言葉。
君の吐くソレがどんな温度で、どんな色なのかを僕は知りたい。

くだらないな。ほんの少しの間を置いてそんな言葉を紡いだ彼の顔は、先程よりも酷く歪んでいて。
「なんでさ。いつも僕のこと嫌いだって言うじゃない。同じことを言うだけだよ」
なら、それに気付いていても尚追い討ちをかける僕は、一体今どんな顔をしているんだろう。
「お前なんか、」
「嫌い?いいよ、それでも。」
だって今日はエイプリルフールだから。つまりはそんな言葉すら僕への愛の言葉だと解釈することが出来る日だから。
皆まで言わなくても賢い彼は僕が言わんとしていることを察したようで、ぎゅ、と唇を噛んで俯いた。
わかってた、わかってたよ。例え僕がこうして言い訳とか口実を渡したところで、彼はそんな言葉は吐かない。吐いてくれない。
いや、もしかしたら遊星とかその辺の女の子になら「エイプリルフールだから」とか言って簡単に吐いてやるのかもしれないけど。少なくとも僕には。僕にそんな言葉は、吐いてくれない。


「ちなみに僕はね、君が嫌い。だいきらいだよ。」


嘘。だいすき。
その、僕が吐いた言葉に不安を滲ませてしまう、君が。



嘘つきは嘘をつけない/ブリュレ!
2012/04/01


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