狐白様から

そこは妖しげな赤い光と賑わいに溢れていた。
どこかで酒盛りをしているのだろう、楽し気な笑い声が軒を連ねる店々から聞こえてくる。
店頭には格子があり、三味線や紙筆を持ち物を書いている格子女郎が時折誘うように男に声をかけていた。
雰囲気を例えるなら、そう、花街のそれに酷似しているそこは、ただし所謂“人間”が存在しなかった。


「そこの異国のお兄さん、ちょいと寄っていかないかい?」


もうこれで何度目だろうか。
目の前に現れた蛇のように長い首を持つ美しい女性を前に、トラツグミは喉まででかかったため息を圧し殺しながら、器用に女性を避けていく。
不満そうな視線を背中に感じたが、それに構う必要性も時間の余裕もトラツグミには持ち合わせていなかった。

さて、所で何故トラツグミが一人でこんな場所にいるのかと言えば、勿論ちゃんとした理由がある。

実は現在午の刻、本来なら空に太陽が輝いているべき時間帯で、彼の主であるトリカブトは丁度人々に奇術を披露してお金を稼いでくれていた。
本来ならトラツグミはそんな彼の側に控えているのだが、まず仕事開始までに適度な宿屋が見付かっていなかった。
異形への偏見ではない。
単に採寸と言う名の壁が弊害として立ち塞がっていただけの話である。

そして更に、休憩中にトリカブトが「甘味が食いたい」と自分を見詰めてくるものだから、愛慕と言っても過言ではないほどの忠君精神を持つ彼が動かないはずはなかった。

そう言うわけで、人間と採寸が違うあやかしの街へと来たわけだが、まあ見事に飲み屋ばかりなので、そろそろ適当にその辺りのあやかしを捕まえて尋ねてみようかと考えていた。

その刹那、前方から来ていた大きな影と肩がぶつかり、ぐらりと視界が揺らぐ。


「おっと」


咄嗟に受け止めてくれたらしい相手に顔を上げると、ここには不釣り合いにも思えるほど鮮やかな柑子色が広がっていた。


「ッすみません、お怪我はありませんか?」


慌て相手から距離を取り、頭を下げれば大丈夫だと軽く返事がきたため胸を撫で下ろす。
そして改めて男性を見ながら、その特徴的な耳や尻尾にとある仲間のを思い出していた。
もしかして彼と同じ一族なのだろうか。


「それよりお前、見ない顔だな。俺は秋田瑞穂だ。好きに呼んでくれ」

「えぇ、旅芸人として各国を回っているんです。ここにはつい数刻前に着きました。申し遅れました、私はトラツグミと言います」


一人の世界に入っていたため内心驚きつつ、平静を装いながら返事をする。
すると目の前の男性、瑞穂は何度かトラツグミの名を咀嚼すると破顔する。


「トラツグミと言えば、鳥の名だな」

「えぇ、まあ……」


別名、鵺鳥。不気味な声で鳴くことから、かの有名なあやかしの名前にもなった。あるいは悲恋や悲しみを嘆く和歌の枕詞として使われるある意味不遇な鳥である。

わざわざ確認して、まさか何故そんな名になどとのたまうつもりか。

既に何度か同じ様な経験をしていたため思わず眉間にシワを寄せると、瑞穂はそんな彼を尻目に機嫌がよさそうに尾を動かしながら口を開く。


「良い名だな」

「は……?」


言い返す言葉を考えていたため思わず口から間の抜けた声が出た。
するとそんなトラツグミを見て瑞穂は喉をならしいやなんだと言葉を続ける。


「俺が好きなだけだがな、トラツグミを」

「……、……鳥ですよね?」

「ん?ああ、そうだが?」


語弊を産むと言うかなんと言うか、彼はとても天然タラシなのではなかろうかとトラツグミはひきつる頬を無理矢理引き上げ、その整った容姿から繰り出されたキョトン顔を見つめた。

ああ、これでどれだけの女性を落としてきたのだろうか――……。


「それで、式神だよな?なんでこんな無法地帯に一人でいるんだ?」


察しが宜しいようで、そうだと本来の目的を思い出しこれも何かの縁だと、事情を説明すれば瑞穂はフム……と腕を組んで考え込む。


「……それなら、柳田屋に行けば良い」

「柳田屋?」

「ああ。何かとあやかしと縁のある宿屋でな、甘味にうるさい奴が良く来るもんだから、出てくるその手のものは絶品だ」


俺程度の体格で五人は余裕で入るような部屋もあるし、と続ける瑞穂にトラツグミは関心する。

それならば甘味もあり部屋にあれだけの男が入っても平気そうだ。所謂一石二鳥ではないか。


「ちなみに、何時ごろ来る予定なんだ?」

「そうですねぇ、はっきりした予定はないのですが出来れば夕方には……」

「そうか。それならトラツグミはご主人の所に戻っておけばいい。これも縁だし、俺が話しは通しといてやるよ」

「え!それはさすがに瑞穂さんに悪いですよ!」


構わねぇよとそこまで言うと瑞穂はトラツグミの頭をぽんと軽く撫で、踵を返して反対方向に歩き出した。
そして途中で思い出したように足を止めると顔だけこちらに向けて「後で知り合いに迎えに行かせる」と言うとトラツグミの制止もむなしく、本当に歩いて人混みに消えてしまったのだった。


「なんて強引な人だ……」


それに何だか妙な笑みを浮かべていたような気がするのだが……。

撫でられた頭に手をあて、彼の手の感触を思い出し慌てて頭を振る。

もう主の元に戻ろう。
妙な気疲れを感じながらトラツグミがトリカブトたちの元に戻って言った数刻後、迎えとして河童が登場し柳田屋に連れていってくれた。


「お待ちしておりました」

「あッ!あなた……!?」


そこで彼らを爽やかな笑顔で出迎えてくれた柑子色に、トラツグミは面食らうことになるのである。


「ん、美味い」

「主のお気に召したようでよかったです。あ、私のもどうぞ」

「ああ、……トラツグミ」

「はい?」

「……でかした」

「ッ!」





――――――――――
某同盟より、瑳毘様宅のトラツグミさんとコラボさせていただきました!

瑞穂がそ知らぬ顔で自分の所の店を紹介し、さらに強制権を与えないと言う暴挙に出てしまい申し訳有りません!
でも柳田屋に旅芸人の皆様が来てくれるなら私が嬉しいです( 〃▽〃)←

ちなみに、一番最後のやり取りはトラツグミさんとトリカブトさんの会話だったりします!
誉められて赤面していたら可愛いですね(^q^)

長い上によく分からない文章になってしまいましたが、気に入っていただけると嬉しいです!

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