高く哀しげな笛の音がする。 見たことは無いが、秋祭りというものだろうか。 「貴方の眼は緋いのですね」 彼はそう言った。 僕は抱き締めた彼の温もりを感じながらそれを聞く。 「まるで夕陽のよう」 「そんなに良いものじゃない」 「いいえ、とても綺麗」 「誉めてくれるのは君だけだよ」 薄暗い蔵の中には、僕らのようなこわれものがひしめいている。 薄汚れた鞠、糸の切れた剣玉、破れたお手玉。 そして、彼と僕。 彼の両足は無いが、とても美しい。 三味線だって上手く弾く。 紅葉柄の着物だってよく似合っている。 だが、彼はこわれものなのだ。 僕と同じ。いらないものだ。 僕は瞳の所為で。 彼は両足の所為で。 けれど、彼が僕と違うのは、外を知っているということだ。 彼は買われて来たのだと言う。 海というものがある遠い所かららしい。 「海は美しいものです」 「それはどんなもの」 「広くて大きくて、青く済んだ水ですよ」 あと舐めると塩辛いの、と彼は笑った。 僕はそんなものを知らなかったが、彼と一緒なら見たいと思った。 所詮、僕が知っているのはこの蔵の中と格子から見える空だけだ。 「君となら、行きたい」 「絶対に行きましょう」 「本当に?」 「勿論。お花見も花火も秋祭りもぜーんぶ」 ぜんぶですよ。 そう言って彼は僕の額にある角を、そっと撫でた。 僕はよく分からない温かな気持になった。 ← |