猫を拾った。

拾ったというか、見捨てるわけにはいかなかったというか。
帰り道に段ボールの中で子猫がにーにー鳴いてたらほっとけないだろう。それは。しかも3匹も。
しかし、拾ったは良いけど家では飼えない。自分の浅はかな思考力には呆れる。でもほっとけない。だからと言ってまた道端に捨てるのはかわいそうだ。
そんな中学生の身の丈に合った堂々巡りを繰り返していたら、突然良い場所が浮かんだ。

伽鴇神社だ。

あそこは何故か猫が多い。みんな野良なんだけど、駆除もされずにたくさんいる。
多分人がいないからなんだろうけど、気味が悪い噂のせいもあると思う。
いつからかはわからないけど、あそこにいる猫は喋ると言われているのだ。
真偽のほどは別にして、私は猫が好きそうな手土産を持って山へ登ることにした。

子猫達がきっとお世話になるであろう猫達へのお土産はキャットフード、猫缶、煮干。
まだ学校の時間帯だったから道行く大人にじろじろ見られたが気にしない。
歩いて行くと御女郎山に着いた。
さわさわと、初夏の風が緑を揺らす。友人は気味悪がっているが、私はこの山が好きだ。
しかし、石段を登って行くと、見覚えのある少女の姿が見えた。

長い黒髪を風になびかせ、この街の学校の制服ではないセーラー服を着た後ろ姿。
しなやかな手足と白い肌。
そして頭に乗せた三毛猫で、顔を見なくても誰か分かった。
こちらに気付いたのか、少女は美しい顔をくるりと振り向かせる。
私の姿を見た途端、少女はその顔をぱっと輝かせて石段を駆け降りてきた。

「ろこー!」

それは以前、私に非日常を見せてくれたスミだった。
まさかここにいるとは思わなかった。普段もどこにいるか知らないけど。
ぎゅっと抱きつかれそうになったから、とっさに段ボールを前に出して防御した。
「……む」
「久しぶり、スミ」
「冷たいぞ、ろこ」
ぷう、とスミはほっぺを膨らませた。
「大体、何故子猫など持っている?まさか捨てるつもりではあるまいな」
「うん……実は色々あってさ……」
私はちょっと後ろめたかったけれど、一通り事情を話した。
「……という訳です」
「ふむ。成程」
そう言うと、スミは少し考え込んでからにやりと笑った。
「ならば、いいだろう。この子猫受け入れてやろうぞ!」
「え、勝手に良いの?」
「勝手にではない。ここは私の家だからな」
「そうだったの?巫女さんみたいな感じ?」
私の問掛けに、スミは首を横に振った。何か楽しそうだ。
そしてふっふっふ、と笑いながらスミはびしりと私を指さして言った。

「それは……私が猫股だからだ!」

しばらく私たちは沈黙した。
「……へー」
「も、もっと驚け!なんじゃ、私が折角正体を明かしてやったと言うに!」
「いや、びっくりしてるよ。うん、本当に」
「反応が地味じゃ、馬鹿者!」
ぶっちゃけ、前に空から堕ちてきた時点でもうびっくりし尽くしてしまっていた。
空も飛べるなんてきっと人間じゃないんだろうなあ、程度には思っていた。
だから今更猫股なんて言われたって動じられない。ていうか猫股って何だよ。
「うう……正体を明かして驚かなかったのはお前が初めてだ……」
「あー……ごめん。でもすごいことは伝わった」
「む……だろうな。当然だ!私は猫股だからな!」
よく分からないけど、機嫌を直してくれたらしい。
「ま、とりあえず子猫は預かろう」
「うん、ごめんね」
ひょい、と段ボールとお土産を取って、スミは笑った。
どことなく子猫が嬉しそうに見えるのは、同族の腕に抱かれているからだろうか。
「ろこは良いことをしたのだ。謝ることなどない」
「良いことかなあ」
「それは良いことだ。捨てた人間はもちろん悪いが、拾ったお前はこやつらを救ったのだからな。それに、私の所にいれば楽しく暮らせる。人語も話すし、その内化けるかもな」
「……良いことかなあ」
「猫は野良でいるのが一番良い!功徳を積んだな、ろこ!」
結局強引に持論を展開したスミは、満足そうに笑った。
スミの言うことが正しいのかはわからなかったけれど、子猫が幸せそうに鳴くのを見て、私はまた会いに来ようと思った。




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