ある晴れた日曜日。
平和な伽弥市に、いつもの通りの朝が来た。

「ゆずりはー、ゆずりはー」
早起きした今昔堂店主・柊楪が店の前の掃除をしていると、常連の健二が駆けてきた。
こんな朝早くから遊んでいたのだろうか。金髪の、同じくらいの年の子を連れている。
「なに?ていうかあんた早いのね。まだ8時なのに」
「べつにいいだろー。こいつとあそんでたの」
健二は隣に立った金髪の子をこづいた。
肩につくくらいの髪はブロンドよりも少し濃い、不思議な色合いだった。
瞳は美しい緑。ハーフなのだろうか。
ただ、男の子か女の子かはわからない。
何故かというと、その子が身に付けていたのは神官の着るような水色の袴だったからだ。
「……はじめまして。お名前は?」
英語をまったく知らない健二と遊んでいるということは、日本語を喋るのだろう。多分。
この際通じなくてもいいや、と思って楪は声をかけた。
「は、はじめまして」
ぴょこん、とその子はお辞儀をして恥ずかしそうに健二の後ろに隠れた。
「なんだよー、はずかしがりやだなあ」
健二はまるで兄のような顔で大きく胸を張った。
「こいつは、むねちかっていうんだぜ」
一体どういう字を書くのだろう。日本人にしても渋い名前だ。武士か。
袴だし、親が日本オタクなんだろうか。
「へー、よろしくね。むねちかくん」
むねちか、という名前の少年は顔をますます赤らめて健二にしがみついた。その様子がいかにも可愛らしい。
「で、結局何でうちに寄ったの?遊んでるんでしょ?」
「おお、わすれてた!」
健二はぽん、と手を叩いて、信じられないことを言った。

「人がむこうでたおれてる」

「……はあ!!?」
健二は嘘などつけないくらい単純だから、多分それは本当だろう。ただ、それが本当なら大変なことだ。
「ばっ……馬鹿っ!早く言いなさい!」
場所は今昔堂から少し歩いた魚屋の横、車が通らない細い路地だという。
楪はすぐに件の場所まで駆けた。

確かにそこには人が倒れていた。

背の高い男が、べったりと死んだように道路にうつ伏せている。
擦りきれた墨染の小袖。薄汚れた脚半にぼろぼろの草鞋。
男の周りには煤けた錫杖とぼろ笠が落ちている。
見たところ僧侶のようだが、髪は剃っていない普通の短髪だ。
荷物は背中にくくりつけた色褪せた風呂敷包みだけのようだ。

事故だろうか、病気だろうか。
楪が恐る恐る覗き込むと、男はゆらりと顔を上げた。
「ひいっ!?」
「す……すまぬが……手を」
その顔は具合が悪そうだったが、まだ若い青年のものだった。
男はか細い声でそれだけ言うと、ぐううううという腹の音と共にまた倒れた。

楪は溜め息を一つつくと、男をどうやって今昔堂まで歩かせようか考えた。




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