クリック? クラック! † 昔々、あるところにそれはそれは美しい声を持つ妖精がいました。 その妖精は、美しい乙女の顔に小鳥の体という不思議な不思議な妖精でした。 彼女は海の泡の妖精だったので、セイレンと呼ばれました。 ある時、セイレンが空を飛びながら歌を歌っていると、見目麗しい青年が帆かけ船を操って小さな島へ向かうのが見えました。 セイレンはその青年を一目見ると、雷で打たれたように胸が高まりました。 そして、何ともいえない美しい声で愛の歌を囀りながら、その後を追いかけていきました。 島には深い森があり、青年はその中へどんどん分けいっていきました。 セイレンもそれを追いかけて、木々の間を飛びながら囀ります。 ぴーちく、ぴーちく、ぴいぴいぴい。 その声を聞いた青年は、 「誰だ!俺の回りで騒ぐ奴は!!」 と怒鳴りました。 セイレンは、そんなことはお構いなしに、自分の素晴らしく綺麗な声を自慢するように囀りました。 燃え上がるような恋の熱情を、可憐な恋の感情を、美しいメロディに乗せて囀りました。 しかし、この青年はとても野卑で乱暴であったので、セイレンの歌に耳も貸さず、 「うるさい鳥め!!」 と、一声叫ぶと、セイレンの体をわしづかみにして海へと放り投げました。 翼を折られたセイレンは、目を白黒させながら海へと落っこちていきました。 傷付いた体が泡に抱かれるのを感じながら、セイレンはあの青年を呪いました。 歌を粗末にした者は、歌に殺されるがいい!! セイレンがそう叫ぶと、その体は海の泡のように無数に分かれ、海面へと浮かび上がったそれらは、それぞれがセイレンと全く同じ姿になって飛び立ちました。 しかし、それぞれにあの美しく愛らしかったセイレンの面影はなく、冷たく整った顔に不気味な笑みを浮かべながら、小さな島の森の上を飛び回りました。 何百、何千の異形の鳥が、呪いの歌を囀りながら飛び回ります。 島にいる青年がどんなに叫んでも、耳を固く塞いでも、恐ろしい羽ばたきと歌が聞こえてきます。 青年は森の中で狂って死にました。 かつてセイレンであった小さな異形の鳥は、静かに横たわる青年の頬にそっと口付けました。 それからというもの、その島の近くを通る船人達は異形の鳥の鳴き声を恐れるようになりました。 もし魅入られたなら、その歌からは逃れられません。 死ぬまで、その身に愛を受けねばならないのですから。 † はつかねずみがやってきた。 これではなしはおしまい。 ← |