クリック? クラック! † 昔々、あるところに昼でも真っ暗な森がありました。 森の奥の奥には赤い屋根の小さなお城があって、それはそれは可愛らしいお姫様が住んでいました。 輝く金の髪に、宝石のように澄んだ青い瞳。 白磁のごとき肌に、薔薇色の小さな唇。 美しいお人形のようなお姫様はひっそりと、たった一人、小さなお城で暮らしていました。 ある時、四人の少年が森へ遊びに行きました。 勇敢な少年達は、大人の男でも恐れる森を奥へ奥へと進んで行きました。 時に兎を狩りながら、時に泉で休みながら彼等は奥へ奥へと進みました。 やがて彼等は、赤い屋根の小さなお城に着きました。 お姫様は彼等を歓迎しました。 彼等を城の中へ招き入れると、薔薇の咲く庭でお茶会を始めました。 けれども、一人目の少年は、お姫様の澄んだ瞳を見つめて、目が潰れて死にました。 二人目の少年は、お姫様の囀るような歌を聞いて狂って死にました。 三人目の少年は、お姫様の氷のような手に頬を撫でられ眠るように死にました。 そして、最後に残った四人目の少年は、お姫様の真珠のような歯に噛み砕かれて死にました。 四人の少年は誰も帰って来ませんでした。 それからここは人喰いの森と呼ばれるようになりました。 可哀想なお姫様。 それは呪いなのです。 愛するモノを見つめられない呪いです。 愛するモノに声を聞かせられない呪いです。 愛するモノに触れられない呪いです。 そして、愛するモノを喰らうしかない呪いです。 お姫様はこれからもずっと一人でしょう。 優しいお姫様は人を愛することしかできないのだから。 暗い森の奥の奥。 赤い屋根の小さなお城。 お姫様は、今日もたった一人、人喰いの森で待っているでしょう。 救われることのない苦しみの時を過ごしながら。 † はつかねずみがやってきた。 これではなしはおしまい。 ← |