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昔々あるところに、小さな王国がありました。

その国の王様には一人の美しいお姫様がいました。
精霊達に祝福され、華やかな美貌と清廉な魂を持った少女でした。

しかし、嫉妬深いお妃さまは娘の美貌を妬んで、まだ幼い娘を高い高い塔の中に閉じ込めてしまいました。
王様は嘆き悲しみましたが、国で一番偉い占い師の予言だと聞かされていたので、仕方なくそれを許すことにしました。

お姫様は、冷たい塔の部屋で凍えながら過ごすことになりました。
暖かいドレスも靴も、美味しい食事もみんな取られてしまい、お姫様は毎日硬い石の床に涙を落としていました。

その上、意地悪なお妃さまは焼けた鉄の杯をお姫様の顔に押し当てたので、お姫様の顔は醜く焼けただれてしまっているのでした。

そんなお姫様を塔の小さな窓から見守る死神がいました。
黒いマントを羽織り、大きな鎌を持った、不健康なくらいに痩せた青年でした。
死神はお姫様を助けてあげたいと思っていましたが、自分が生きた物に触れられないことを知っていましたので、毎日ただお姫様を見ることしか出来ませんでした。

しかし、お姫様は優しく、またとても寂しがっていたので、毎日死神に話しかけていました。

遠い昔の思い出や、覚えた歌や踊り、いまの気持ち。

死神はほとんどそれらを聞いているだけでしたが、ぽつりぽつりと異国の話を語ることもありました。

死神はお姫様に触れることは出来ませんでしたが、お姫様を元気づけることは出来ました。
塔の窓から、あるいは塔の部屋の隅っこで、死神はお姫様と色々な話をしました。

しかしある日、お城の兵士がたくさんやって来て、お姫様を外へと連れ出しました。
死神はお姫様をそこから逃がしたかったけれど、触れることが出来ないので、仕方なくその後をついて行くことにしました。

お姫様は塔を出て馬に乗せられ、町の大きな広場へ連れて行かれました。
そこには数十年振りに使われる、無骨な断頭台が置かれていました。

死神には分かってしまいました。
急に、お姫様から死の匂いがしたのです。
女王の圧政や民衆の不満など、何も知らなくてもお姫様がどうなるのかはわかりました。

やがて、何も知らないお姫様の細い首が台に押し付けられました。
肌は青ざめ、美しかった金の長い髪も切られ、惨めで可哀想な姿になってしまいました。

かんかん、と兵士の槍が鋭く石畳を叩く音がして、民衆の野次と礫が止みました。

お姫様はまだがくがくと震えています。
痩せ細った体と顔の火傷を見て、流石の首切り役も同情を覚えたのでしょう。
静かに十字を切り、辛そうな顔をしたまま口の中でもごもごと謝罪を述べました。

お姫様は何も知らないまま死にました。

悲鳴をあげる暇すらなく、お姫様の首は綺麗に切られて民衆の前に落ちました。
その表情はあまりにも美しく、恐ろしい程だったので、民衆から兵士までも顔を青ざめ戦慄しました。

死神はお姫様の魂をぎゅっ、と抱き締めておいおい泣きました。
あまりにも寂しく悲しすぎる最期でした。
死神は嘆き苦しみ鎌を振り回したので、広場の民衆の何人かも死んでしまいました。
唯一の救いは、お姫様の魂の首はちゃんと繋がっていて、絹のように美しいあの長い髪も元通りになっていたことでした。

お姫様は死神に触れることが出来たのが嬉しくて、死神を強く抱き締め返しました。
閉じ込められていたお姫様は、たった一人の友人である死神に触れることが夢だったのです。

そして、死神は塔の部屋しか知らないお姫様が不憫に思われたのでお姫様の魂を世界中の美しい場所に連れて行くことに決めました。
二人は手を取り合って、世界の楽園と呼ばれる場所を目指して旅立ちました。

それから、死神とお姫様が何処へ行ったのかを知っている人はいません。
王もお妃様も死に、この時の物語が幾度となく語り継がれて来ましたが、あの哀れなお姫様のことはみんなみんな忘れてしまいました。

今のその町の断頭台があった場所には赤く小さな花がたくさん咲いています
その花は、お姫様がここであったことを忘れないためめに、神様がつけた目印だということです。


はつかねずみがやってきた。
これではなしはおしまい。


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2000打記念
110207 彩月さんへ




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