伯父の医院を手伝うため、東京からこの街へ来た。 医院は街の外れにあり、案内役の男が今、丁度車を手配していた。 乾いている。 街を見渡して、そう思った。 軍靴の音高い時代が、この街をごっそりと削り取ってしまったようだ。 そして生々しい傷に塩を塗るように、冬の風があちこちを吹き荒ぶ。 人々もまた同じように乾き、日々の糧だけを求めて歩いていく。 その癖、胡散臭い行商は楽しげにあちこちをふらふらしている。 嫌な街だ。 私は遠い昔の葬式を思い出した。 小さな骨壺に収まっていた、あの乾いた白い骨。 あれは祖父だっただろうか。 そのまま亡き祖父を思い出そうとした時だ。 突然、私の袖を引く者がいた。 振り返れば、新しく仕立てた背広をそっと摘む指。 それは蝋のように白く、私は一瞬死体かと思った。 思わずその手を見ると、血の通った桜色の丸い爪がついている。 指先から手首、そのまた先へと視線を移すと、細くて白い腕が檻の中から伸びていた。 香具師のものか。 見世物にされる人外か。 そう思って檻を覗き込んだが、其処にはただの人間がいた。 色の白い、か細い少年である。 真冬だというのに薄い着物一枚だけを身に付けた、ざわめくような美貌の少年だった。 人というよりは、それこそ人でないような。 例えるなら人形の如き雰囲気である。 黒髪は絹の糸で、此方を見つめる瞳は潤んだ漆黒の硝子玉だ。 不意に救いを求めるように、私の袖を引く力が強まった。 紅を付けたような唇が静かに開いて、言葉を発しようとしていた。 恐ろしい。 私は、この檻の中へと引きずり込まれそうな気がした。 否、そうじゃない。 自分から檻の中へと入ってしまいそうで、とても恐ろしかったのだ。 「どうです旦那。上物でしょう」 気が付くと少年の手は檻の中に消え、薄汚い背の低い男が私に話し掛けていた。香具師であろうか。 何にせよ、まっとうな人間ではあるまい。 「近くの村から買ったんですよ。久々に儲かりそうだ」 「買ったとは、どういう」 「やだなあ。知ってるでしょう」 そこで男は下卑た笑みを浮かべた。 私はそこでようやく理解した。 見世物などよりも、もっと低俗な理由で少年は買われたのだ。 それじゃあ、と言って男は檻を引きずりその場を去った。 布が被せられたから、少年は見えなかった。 少年は本当に、私に救いを求めたのか。 この美しい生き物は、商品として取引されているのか。 きいきい、と檻の軋む音がする。 この先彼はどうなるのだろう。 名も知らぬ男の元に売られていくのだろうか。 人形のように、家畜のように。 遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。 心の激しい悲しみに蓋をするように、私は足早にその場を立ち去った。 ← |