君は強い、と黴菌くんは言いました。

彼らの情けない悲鳴を聞いてぱらぱらと集まった大人達が私達を見て、見せかけだけの甘い言葉で慰めて、それが気持ち悪かったから、黴菌くんの手を握ったその時でした。

私は少しの間黙って、黴菌くんの前だけだと言いました。

本当の私は脆くて弱い。

黴菌くんがいなかったら、あんなことできなかった。
少しでも世界を変えようなんて思えなかった。
ただ心を押し殺して、日々を消費する。
それが、今までの私だった。

でも、黴菌くんのおかげで私は少し変われました。本当に少しだけ。

だけどね、世界は変わらなかったの。

体の傷はなくなっても、心に傷が増えていく。

鞄の中にはたくさんの紙片。
靴の中には命の残骸。

私達はやっぱり異端者で、みんなにとっての敵だった。

何も変わらないとわかっていたけど、少しだけ悲しいね。
こんな私だって、たくさんの友達や、甘ったるいお喋りに憧れたりしてたし。

でも今はそう思わない。思えない。

世界は変わらないけど、私は変わったんだ。
そんな幻想なんていらない。必要ないの。

今の私に必要なのは小さな幸せ。

好きな人におはようと挨拶をして、好きな人と二人でご飯を食べて、好きな人と一緒に勉強をして、好きな人と離れてもおやすみなさいとメールを送る。

遠いようで、意外と近かった、そんな平和。幸福。喜び。

どうやら世界は私が怖いらしい。
それは残酷だけど絶対的な事実。そんなことは気にしません。

私の名前はカッターちゃん。
私の王子様は黴菌くん。

私達は馬鹿みたいにぼろぼろで、愚かなまでに傷だらけ。

だけど、幸せで満ち足りた、ただの人間なの。

 
モドル


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