今日もいつも通り一日が過ぎる予定だった。 殴られて蹴られて罵られて蔑まれて。 真っ黒一色の予定だったのに。 あいつらは、カッターちゃんに手を出した。 何が気に入らなかったんだろう。 僕と仲が良かったから? 僕と話していたから? あいつらは、何もかもが気に入らなかったのか。 バケツに汲んだ水を頭から浴びせられて、カッターちゃんは溺死体のようだった 。 あちこちに痣や傷が出来て、壊れた玩具のようだった。 でも目だけは強い炎のように爛々と燃えていた。 それが僕の心には痛々しくて、涙で目が見えなくなった。 ごめんね、カッターちゃん。 僕がいなかったらカッターちゃんはまだ怪我をせずに済んだかもしれないのにね 。 ごめんね、ごめんね。 僕は多分、生まれて初めて叫んだ。 彼女を助ける為に大声で。 それは意味も何もない、ただの音の羅列だった。 でも、カッターちゃんは僕を見るとにこりと笑って、そっとカッターを取り出し た。 そして何の躊躇いもなく、あいつらの一人の腕に突き刺した。 本当に突然に。 そんな素振りも見せなかったのに。 激しくもなく手加減もなく、ただ淡々と。 音はしなかった。 ただ、細やかな鮮血だけが一滴床に滴り落ちた。 あいつらはみっともなく叫び、カッターちゃんは何も動揺せず、血の気のない顔 でもう一人にカッターを向けた。 駄目だ。いけない。 カッターちゃんは女の子なんだから。 「もう、いいよ」 僕に出来たのはカッターちゃんを抱き締めることくらい。 力を込めたその手の中から、震える手でカッターを取り上げると血の付いた刃物 は床に落ちた。 かしゃん、と乾いた音がした。 抱き締めたカッターちゃんの体は温かかった。 その体温を感じながら、僕は世界が泣いているように感じた。 ← → モドル |