ロリィタは女の子だった。 ロリィタはこの学校の生徒だった。 ロリィタは確かに生きていた。 でも俺は、ロリィタの顔も名前も分からない。クラスも部活も分からない。 ただ一つ分かるのは、 彼女がつい最近死んでしまったことだけ。 初めに話しかけてきたのはロリィタだった。 勿論、実際に会って話をした訳じゃない。 俺とロリィタを繋いでいたのは、俺の靴箱を行き来する小さな日記帳だった。 『文通をして下さる方は、これに返事を書いておいて下さい。取りに来ます。』 いつかの冬の日。 手がかじかんで、中々靴箱を開けられずに困ったのを覚えている。 赤く可愛らしい日記帳が靴箱に入っているのを見て、俺は笑ってしまった。 相手を間違えたんだろうと思ったんだ。 それでも、少し面白かったから返事を書いてみた。 「人違いではありませんか」 次の日の放課後、恐る恐る靴箱を開けると再び日記帳が入っていた。 『お返事ありがとう。人違いではありません。私はロリィタ・キルといいます。あなたの名前は?』 綺麗な字で書かれた返事を見て、俺は少し怖くなった。 何だか、日記帳が急に異世界から来たもののように見えたから。 それでも不思議な、このロリィタという人物に俺は惹かれてしまった。 「俺はSといいます。男です。ロリィタはどうして俺を選んだんですか。」 俺の返信に対する返事は短かった。 『理由は無いけどあなたに惹かれたから』 でもその言葉が、俺をもっと深く不思議な文通に引き込んだ。 それからというもの、俺はロリィタとほぼ毎日文通をした。 些細なことでロリィタは喜び、そして悲しんだ。 ロリィタは紛れも無く少女だった。 きらきらと、よく分からない魅力を放つ生き物だった。 だが、出会いが突然だったように、別れも突然やって来た。 それは秋。 ロリィタと出会ってからあと少しで一年、という時だった。 『子供の私と大人の私の折り合いがつかないので、遠いところに旅に出ます。多分もう会えないから、私のことを忘れないで。実は、ロリィタはあなたにすこぉしだけ恋をしていたのですよ』 文面が、いつもと違った。 嫌な予感がした。 危ういまでに輝いて、それで消えてしまいそうに儚い。 一回も会ったことは無いが、本当にもう会えなくなる気がした。 俺は意味も無くロリィタを探した。 手掛かりは何も無かったから見つかる訳がなかったのに。 数日後、予感は的中してしまった。 日記帳に新しい言葉が書き込まれることは無かったからだ。 そして、ある女子生徒が飛び下り自殺をしたと聞いた。 多分それはロリィタだったんだろう。 そう考えてから、俺はロリィタは年下だと気付いた。 そしてロリィタにもう会えないと思うと、自然と涙が出てきた。 何故か思い出すのは、あのロリィタの最後の言葉だった。 すこぉし恋をしていた、か。 ねえ、ロリィタ。 君は俺に何をして欲しかったの? ← |