隣のクラスの子が自殺したんだって、と言ったら、ふうん、と間の抜けた返事が返ってきた。

「でも、その子は幸せだね」
ふにゃふにゃのふうん、の後に、彼はぽつりと呟いた。
「だって、この世から消えることが出来たんだもの」
すごく、寂しそうだった。
そしていつもは大人っぽい彼が、一瞬だけ叱られた後の子供に見えた。
でも、それは薄青い街灯のせいだったのかもしれない。
「しゅう君は消えたいの?」
私はふと気になって、彼に聞いた。
そうすると、彼はいつものように優しく微笑んで、
「まさか!」
と、言った。
「君がまだ生きているから、死ねる訳が無いよ」
そう言うと、大きな手で私の頬をつるりと撫でてくれた。
私は少しの間情けない顔をして、ようやく口を開いた。
「私が死んだら、しゅう君も死ぬの」
「それは勿論。だって僕らは死んでも一緒だから」
そう。彼はいつも私に言う。

死んでも一緒だから、と。

それと同じくらい、賢くなっては駄目だよ、と言う。
勉強しないと仕事に就けない、と親に叱られたので、彼にそう伝えたのだけれど、それなら僕のお嫁さんになればいい、と言われた。

どれも、私には勿体無い言葉だと思う。

だって、彼は二つ年上で、格好良くて、頭が良くて優しいのに、私は地味で、馬鹿で、可愛くも無いから。

どうしてこんなに私を好きになってくれるのだろう。
私の唯一の特徴と言ったら、小さく幼く見えることだけなのに。

しばらく、硬いアスファルトを叩く、私達の冷たい靴の音だけが聞こえた。

もう少しで私の家、というところで彼は突然足を止めて、
「電気虫」
とだけ、静かに呟いた。

「ほら、あの街灯を見てご覧。消えかかってるだろう」
彼が指差した灯りは、確かにちかちかと儚げに瞬いていた。
「あれは、灯りの中に住む電気虫が死んでいくからなんだよ」
それを聞いた瞬間、ふっ、と本当に微かだった光が消えていった。
「……消えちゃった」
「うん。皆死んでしまった」
彼は心底悲しそうに、そう言った。

「電気虫は、見知らぬ誰かを照らすためだけに生まれ、死んでゆく虫。今、彼等は君を照らすためにその命を全うしたんだ。美しいなあ……僕も、そうなりたいよ」

でも、消えた電灯を見つめる彼は、電気虫よりもずっと美しくて、私はこっそりその手に自分の手を重ね合わせた。




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