「失礼ですが、魚や何か、肉のようなものを捌かれましたか」
やっと先の写真を忘れられた所だったので、榊の唐突な質問はまるで刃の如く私の精神を脅かした。
もごもごとそれについて弁明をする間、あの生臭さは先程よりもかなり強くなっていたようで、成程客人には迷惑だろうと思った。
「ふむ。肉に触れてもいないと言うと、何でしょうな。まるで獣のような」
そう言って榊は、ちらりとあの黒い箱を一瞥した。
榊は何もかも見抜いているのだろうか。私は何もかも話してしまおうかと悩んだ。
「失礼ですが、あの箱は」
「あ、忘れ物、のようです。今日……や、やって来た方の」
写真のことは言えなかった。あれはきっと見間違いだったのだ。そう信じたかった。
しかし、私の希望とは裏腹に、箱を見る榊の顔は険しい。いや、箱ではなくその向こう側に何かがいるかのように一点を見つめている。
まるでその行為に呼応するかのように、得体の知れない生臭さは強くなる。
私はついに内なる恐怖に負け、全てを榊に話すことにした。
あの写真を私は直視出来なかったが、榊はまたもそこに何かを見出だしたらしい。
厳しい表情を崩さぬまま、箱を借りて良いか、と私に尋ねた。
何処へ向かうのかは知らぬが、このまま真相を知らないでおくのも、収まりが悪いと思った。
「か、構いませんが、その、お客様のものなので、わ、私も一緒に」
思わずそう言ってしまったが、榊はむしろその方が都合が良いでしょう、と言った。
そして、きびきびとした動作で写真と箱を風呂敷に包んで店の外へ出て行った。私は慌てて外套と帽子を持って後へ続いた。
何度も鍵を取り落としながらどうにか玄関に鍵を掛け、休業の旨を記した札を戸に貼付けると、榊は円タクに乗り込んだ所だった。
突然振り回されることに対する若干の苛立ちを抱えながら、私は大人しくそれに続いた。




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