私は子供の頃から目立つことが何よりも嫌いで、いつも人の陰に隠れることしか考えていなかった。

でも、どうやらそれは周りの子供達には臆病とか根暗とかいうように見えたらしく、私はよくいわれのない迫害を受けた。
それでも私は目立ちたくなかったので、ひたすら耐えるだけだった。
だが、実際のところ私は臆病でも根暗でもなかったので、他の子供達を許すことはなく、陰で彼等を憎み嫌った。
彼等の迫害は日に日に勢いを増した。
私はその激しい言葉に耳を塞ぎ、陰にひっそりと隠れるしかなかった。迫害をする子供達の中に、前の日まで私と仲の良かった女の子がいた時も、そうするしかなかった。
何日そんなことを続けたのだろう。
ある日突然、私の目に彼等が映らなくなった。姿だけでなく、声も匂いも全く無くなった。
ただ、私を触ったり引っ張ったりする動きだけはあったので、彼等は幽霊になったのだと思った。
しかし、それでも迫害が終わることなく、私は日々見えざる子供達から小突かれたり蹴られたりするのに耐えなければならなかった。しかも、私には相手が見えないので、全てを甘んじて受けるしかなかった。

中学校に上がっても、高校に行っても、どこかで小さな迫害があり、私はやはり耐え続けなければならなかった。
そして、私を傷つけたり見下したりした人々は幽霊になっていき、ひどい時はクラスの半分以上が幽霊だった。
大学へ行くようになってからようやく迫害が止み、私は初めて穏やかな日々を過ごせるようになった。また、初めて心も何もかも許せるような、優しい穏やかな男性にも出会った。
やがて私はある会社に事務として勤め、忙しい日々を送るようになった。それなりに辛いこともあったけど、もうすぐ彼と結婚出来ると思うと何のことはなかった。

しかし、異変に気付いたのはこの頃からだった。
女を見下しねちねちと小言を言う癖のある上司が幽霊になった時だった。
以前までとは違い、机や上司の持ち物まで全て見えなくなっていた。
しかし、どうやら他の人には上司の姿が見えるらしく、私だけが職場で孤立していた。
見えないのは私だけだった。わざとじゃないのに、私のせいじゃないのに、向こうが勝手に消えただけなのに。彼等にとって私は、上司に理由なく反抗する異端だった。
だが、いつまで経っても私には再び上司の姿を見ることは出来なかった。
私は一連の出来事から、ついに病院へ入院することになった。

医師によると、見えなくなることの原因は、遠い日の記憶のせいだった。
あの日の心の傷のせいで、見たくないものは見えなくなったのだ。
私は私が恐ろしくなった。これからも、幽霊に囲まれて生きていくことになるかと思うと、とても悲しかった。
ただ一つ救われたのは、彼が私を見捨てなかったことだった。彼は私を労り、慈しみ、深く愛した。

私が入院してから1年と少しが経ったある日、私を訪ねて誰かがやって来た。私の昔の同級生で、多分幽霊だろう、とのことだった。
彼は私に、その子に会うことで辛くなるかもしれない、と言った。
私はもうどうにでもなれ、といった気持で、その子に会うことにした。
彼が顔を向けた先をじっと見つめると、大人になった彼女がぼんやりと浮かび上がった。あの日私を裏切った女の子は、泣きそうな顔でこちらを見ながら、震える声で私に謝った。
彼女は高級なスーツで身を固め、左手の薬指には小さな金の指輪が嵌っていた。
その姿は私と違って洗練されていて、私は至極素直に、うらやましいな、と思った。
しかし、私が失ったものはあまりにも大きすぎた。彼女を許すことなど、到底出来そうになかった。

ゆるさないわ、と私がそっと呟くと、私の目から一粒だけ涙が流れ、彼女の姿は再び消えた。




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