おれは父さんに似てない。母さんにもあんまり似てない。じいちゃんにもばあちゃんにも似てない。 母さんは、おれが誰かに似てるって言う。でも誰に似てるかは教えてくれない。絶対、あなたは知らなくていいのよ、って笑うだけ。 父さんはおれを見ない。たまに目が合うと悲しそうな顔をする。おれはそれが少しいやだ。たぶん、おれが女の子の格好をしてるから。母さんのせいなのに。 母さんのせいでおれは女の子になった。毎日、長い髪をリボンのヘアゴムでしばって、スカートをはいて学校に行く。男の子が遊んでるのを見ると、おれも入れてー、って叫びたくなる。でも、スカートだから一緒には遊べない。ほんとはおれ男なんだよ、って言いたいけど、母さんが悲しむからだめ。 母さんに、なんでこんなことするの、って聞きたいけど、聞いたらいけない気がする。 学校で勇気を出して先生に言った。おれは男ですって。 先生はいいのよ、って言っておれの頭をそっと撫でた。あなたはおかしくないからね、って言いながら。 どうしてなのかな。 鏡を見ると、いつも悲しそうなおれ。 おれは女の子じゃないのに、鏡の中のおれは女の子で、何でかわからないけど涙が出てくる。 そうして泣いてると、母さんがやってきておれをぎゅってする。父さんはちょっと離れたところで、悲しそうにおれを見る。 そして、いつも鏡の中にはユウレイがいる。 泣いてるといつも現れる、でもおれにしか見えないユウレイ。おれによく似た顔をした、男の人。 ユウレイは半透明で、泣いてるおれの涙をふいて、母さんのほっぺにキスをする。 ユウレイはおれのお父さんなの?、って心の中で聞くと、ユウレイは優しく笑って消える。 ユウレイはおれの小さなひみつで、誰にも言えない。 ひみつを言うまで、おれはきっと女の子のまま。 ← |