フランシスはびっくりする程美しい少年だったけど、いわゆる嘘つきというやつだった。

おとぎ話のように甘くて綺麗な嘘を、それはそれはたくさんつく少年で、ルイスはいつも騙されていた。
ルイスが初めてフランシスと出会ったのは、小さな丘の小さな花畑だった。
薄紅の花がたくさん咲くその場所で、ルイスはフランシスから素敵なおとぎ話を聞いた。
実際、その時のルイスはおとぎ話を現実の話だと思い込んでいたが、とにもかくにもフランシスのことを本当に素敵な少年だと思ったのは確かだった。
そしてフランシスにはカトリーヌという妹がいて、こちらは嘘はつかない、ただただ大人しい女の子だった。

ルイスはその内、フランシスの嘘をつく癖に気付いたが、特に不快に思うこともなかった。
フランシスの嘘は、嘘というには夢が多すぎてまるで砂糖菓子みたいだったからだ。
ルイスはそんな嘘が嫌いではなかったし、それよりもフランシスの嘘を否定も肯定もしないカトリーヌの方が苦手だった。
ただ、二人の様子が田舎町に似合わないのは不思議に思っていた。
二人共、どこか貴族のような雰囲気を纏っていて、ルイスには眩しく感じた。

知り合ってからというもの、三人は花畑で一緒に遊ぶようになった。
それは周りに同じ年頃の子がいなかったルイスにとってはとても楽しいことだった。
時にはルイスの家で遊ぶこともあったけれど、フランシスは絶対にルイスを家に招こうとしなかった。
ルイスが家の場所や様子を聞いても、いつものように小さな嘘をついて話をはぐらかした。
何か事情があるのだと思って、ルイスもそれ以上は特に追求しなかった。

しかし、ある日、フランシスは突然自分の家について話し始めた。
本当に唐突に、丘の上、赤い屋根の家を指さして、あれが自分の家だと告げた。
ルイスはちょっぴり驚き、それからちょっぴり落胆した。
フランシスが指した家はちっぽけで、柵もぼろぼろで、貴族的なフランシスに似合わなかったからだ。
けれども、ルイスは嬉しかった。
おとぎ話の中の、偉大な魔法の秘密を知ったような気分になった。
フランシスは微笑んで、明日遊びに来てくれ、と言った。

次の日、ルイスは意気揚々と丘を登っていた。
前日のことはささやかなことだけれど、ルイスにとっては誇り高いことだった。
まるで、王宮に向かう騎士のように、厳かで優雅な気分でフランシスの家へ向かい、ドアを叩いた。
高揚した気分で待っていると、ドアが開き、中から中年の婦人が現れた。
その人は醜くささくれていたけれど、きっとフランシスの母親だろうと思った。
しかし、フランシスに会いに来たことを告げると、婦人は怪訝な顔でこちらを見て、うちにそんな子はいないよ、と言ったので、ルイスは固まってしまった。
この赤い屋根、ささくれた柵、扉の近くに咲いた白い花。
どれもこれも、フランシスが話した通りだった。なのに、中に住む人だけが違う。
ルイスは、きっとフランシスのいつもの嘘に協力しているのだろう、と思いもう一度詰め寄った。
しかし、知らないったら、もう一軒先の家じゃないのかね、と言って婦人は扉を閉めてしまった。

あの日のフランシスの言葉がルイスの頭の中をぐるぐる巡った。
嘘つき。嘘つき。嘘つき。
ルイスは心の中で叫んだ。フランシスは悪魔の様に巧妙に鮮やかにルイスを欺いていた。
悔しくて、腹が立って泣きたくなった。今頃、フランシスとカトリーヌ二人で戸惑うルイスを眺めているかと思うと、消えてしまいたくなった。

だが、フランシスはいつから、どこからどこまで嘘をついていたのだろうか。
これが嘘なら、フランシスは、カトリーヌは何者なのだろう。何処から来て、何処へ行くのだろう。何のために嘘をついたのだろう。
あの美しい笑顔の裏には、一体何があったのだろう。

ルイスは急に恐ろしくなった。
ぴゅう、と冷たい風がルイスの肩を撫でて消えた。






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