僕が屍になった理由///junk

「僕が屍になった理由、おにーさんに教えてあげる」

夜の学校のグラウンド。
不気味な闇の片隅で、俺はおかしな話を聞かされた。

無職生活にも飽きて、深夜アニメにもうんざりした俺は、ふらりと夜の学校へ誘われたのだった。
何故か分からないけど、月がとても赤い。
俺は思った。
ここは本当に"学校"なのだろうか?
そうしてぽかん、と阿呆面で空を眺めていた俺に、自称・学校の番人だという少年が話しかけてきたのだ。

「僕が屍になったのは、大人になりたくなかったからだよ」
赤い振袖に、鈴の髪飾り。
少女の格好をした少年は、踊るように夜空を歩いた。
俺も手を引かれながら歩いた。
夜空というのはゼリー状らしい。
足に吸い付くようで、ひどく歩きにくかった。
「大人になるのは嫌か」
「嫌だよ。汚れてしまうもの」
少年は笑って、夜空を泳いでいた金魚を捕まえた。
そして、俺が膨らましたシャボン玉の中に、そいつを器用に入れて浮かべた。
「綺麗でしょ?」
「ああ」
「屍になればこんなこともできるんだよ」
「楽しそうだな」
その言葉通り、俺は随分色々なものを見せて貰った。
七色に輝きながら行進する達磨の群れや、星の欠片の提灯や、夜空に浮かぶ縁日の屋台など。
多分、一生分の不思議なものを見ただろう。
「楽しかった?」
「ああ。久しぶりに……何かに熱中した」
「それはよかった」
少年は、金色の龍の背に俺を乗せて、学校の中へと連れて行った。
誰もいない不気味な校舎の中。
俺の足音だけが響いた。
絶対に長すぎる古びた廊下の奥、大きな鏡の中に何本もの赤い鳥居が見えた。
蝋燭の光に照らされたそれは、怖かった。
ここは異界だと、俺の何かが告げていた。

「ここをくぐれば」

不意に後ろから声が聞こえた。
少女か、少年か。
分からない。
だから、こんなに目眩がするのだろう。

「おにーさんも屍になれるよ」

それは甘美な響きだった。
"大人"という煩わしい枷から放たれるのは、どんなに楽なことだろう。
足が動きそうになる。

けれど、俺はもう"大人"になってしまった。
もう、子供が怖いのだ。

「俺は、帰るよ」

それに、俺は日常を手放したくない。
この止まった世界こそ、俺の世界だ。

屍なんか、死んでも嫌だ。

「そっか。さよならおにーさん」

少年はどこかほっとした顔で笑った。
俺も笑った。

気が付くと、いつもの万年床の上だった。
あれは何だったのだろう。
しかし、手に握った、ビー玉を見て気付いた。

あれは夢では無かった、と。


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お題提供:小梅日和
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