最期に想うのは///鬱

空が切り取られている。

ぼんやりと上を見上げると、ぎざぎざの青い色が目に入った。

透き通るように綺麗な色だったから、思わずあの人を思い出した。

優しく、それでいて強い人であった。
少し前、何も知らない私はお嫁に行くと聞いた途端、恥ずかしくなってしまって、逃げるように散歩に出かけた。
その時偶然あの人に会って、良いお天気ですね、なんて話しかけられたのだ。
私は真っ赤になってうつ向いて、何を言おうかもじもじしてしまった。
怒らせてしまっただろうかとそっと顔を上げると、あの人も顔を真っ赤にして、照れ臭そうに頭を掻いていた。

こんな時世だから、娘らしい贈り物なんて貰えなかったけれど、あの人は度々花やら果物やらを持って訪ねてくれた。
私もあの人も不器用で、上手く話は出来ぬけれど、隣に座っているというのが嬉しかった。

なのに突然、あの人はきらきらとした若い眼差しだけを残して旅立って行った。

嫁に行ってから、互いに夫婦らしいことなどしていなかった。

汽車に乗って何処か遠くへ旅立つあの人を、私はどんな顔で見送ったのだろう。

あの人は寂しく微笑んで、きっと戻って来るよ、と言った。

ああ、あの人が帰ると言うならその時まで待とう。
物はあまり無いけれど、せめて温かいご飯と味噌汁を用意しよう。

泣き暮らしては立ち行かぬ。
あの人のように強く生きてみよう。

ついさっきまでそう思っていたけれど、それはやっぱり強がりだったのかもしれない。

寂しい、寂しい、寂しい。
あの人が今は遠い。

焦臭い臭いがする。
ぱちぱちと、火のはぜる音がする。
幼子の泣き声が聞こえる。
人々のうめき声が聞こえる。

まるで地獄。
此処は現世か、幽世か。

私の体は、動かない。

それが何故なのか私には分からない。
ただ、あの人が綺麗だと誉めてくれた私の髪がなくなってしまったのが分かって、ひどく悲しかった。
焼けたのかもしれないし、切れたのかもしれない。
あの人のために長く伸ばした髪だったのに。

あの人は私を見て何と言うだろう。
寂しい顔をするかしら、驚いた顔をするかしら。

けれど、今すぐあの人に会いたいと言うのに、あの人は名も知らぬ場所に行ってしまった。

こんなにもあの人は遠かったのね。

そう呟いてみると、破れた空が涙でにじんだ。

----------------
お題提供・水葬
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -